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3月21日、ロサンゼルスのスキッド・ロウで初の新型コロナウイルス感染者が出た。町ではマスク姿の人も見るようになったが、無料の食事を受け取るために人々が行列を作ることも多く、社会的距離の確保は難しい。(Photograph by Michael Christopher Brown)

毎日が濃厚接触、ホームレス街を覆う新型コロナの不安

2020.04.11

 米国ロサンゼルスのダウンタウンの東にあるスキッド・ロウと呼ばれる地区は、社会の片隅で生きる人々が集まる町だ。50ブロックほどの狭い地域に、倉庫、低所得者向け賃貸住宅、安ホテル、テントが建ち並ぶ。

「スキッド・ロウ」とは、元々、林業労働者たちが住む町の呼称だった。材木の運搬専用道路のことを英語で「スキッド・ロード」というが、その道路沿いに労働者たちの住む町が形成され、やがてそれはスキッド・ロウと呼ばれるようになった。その後大恐慌時代になると、どこであれ、貧困者たちの住む町のことを、スキッド・ロウと呼ぶようになった。ロサンゼルスのスキッド・ロウは人口およそ5000人。大都会のなかで、ここだけは道端にホームレスのテントが並ぶ異質な光景が広がっている。

 3月31日、このスキッド・ロウで最初の新型コロナウイルス感染者が出た。この町に数多く存在する貧困者支援団体のひとつ、ユニオン・レスキュー・ミッションの職員だった。ロサンゼルス全体でも、この週はCOVID-19の患者が急増した。4月5日の時点で、ロサンゼルス郡の感染確定者は5940人、死者は132人だった。

ギャラリー:ロサンゼルスのホームレス街、新型コロナ感染の不安 写真17点(写真クリックでギャラリーページへ)
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ホームレスに食事を提供する慈善団体ミッドナイト・ミッションの外で、世間から身を隠すように座り込む男性。コロナウイルスの感染リスクを抑えるために、今は屋外で炊き出しをする団体が増えた。(Photograph by Michael Christopher Brown)

 スキッド・ロウの住民にとって、慈善団体やボランティア団体は貴重な存在だ。生きるためには、彼ら以外に頼れる存在がないという人も多い。

 私は、ロサンゼルスでも特に感染リスクの高いスキッド・ロウとその住民たちを、数カ月かけて取材してきた。ウイルスがここまで到達した今、町はこれからどうなるのだろうか。ロサンゼルスには6万人のホームレスがいる。最近の研究で、そのうち2500人以上が新型コロナウイルスに感染する恐れがあると推定された。そのホームレスのうち、およそ13%がスキッド・ロウに住んでいる。

 ここでの生活は、毎日が濃厚接触の繰り返しだ。人々は狭い場所に密集し、食べ物や飲み物、麻薬、アルコール、現金を日常的にやり取りしたり、共有したりする。無料の食事や寄付された生活必需品を受けとるために、密接して行列を作る。新型コロナウイルスの感染力の高さを見れば、ひとり感染者が出たら、ウイルスはあっという間に地域全体に広がってしまいそうだ。

手作りのシェルターのなかで、体を前後に揺らす男性。(Photograph by Michael Christopher Brown)
手作りのシェルターのなかで、体を前後に揺らす男性。(Photograph by Michael Christopher Brown)
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ロサンゼルス警察中央地区警察署の外で横になるホームレス。ロサンゼルス全体の殺人発生率は減少しているが、ホームレスをターゲットにした殺人事件は増加している。(Photograph by Michael Christopher Brown)
ロサンゼルス警察中央地区警察署の外で横になるホームレス。ロサンゼルス全体の殺人発生率は減少しているが、ホームレスをターゲットにした殺人事件は増加している。(Photograph by Michael Christopher Brown)
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 最近になってもなお、多くの人が十分な安全対策を取らず、他人との社会的距離を保っていないことに気付いた。そんななか、少しずつではあるがマスク姿が見られるようになった。そのほとんどは、手作りのマスクだ。道端で本や携帯電話の充電器を売っているステファニー・アーノルド・ウィリアムさんは、古着を切ってマスクを縫い始めた。彼女は、働いているときはいつも満面の笑みを浮かべている。

 4月3日、ユニオン・レスキュー・ミッションから4人の感染者が2台の救急車で運ばれていくのを目にした。その数ブロック先では、別の救急車の中で呼吸器の管を鼻に付けている女性がいた。つい最近私がインタビューしたラトーヤ・ヤングさんだった。38歳の女性で、HIV感染者だ。救急隊員に近寄らないよう警告されたので、私はただ会釈して、ヤングさんに「また近いうちに会いましょう」と声を掛けた。

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