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1930年代、潜水球と呼ばれる鋼鉄製の装置で、歴史上最も大胆な有人深海探検が行われた。写真はバミューダ島のセント・ジョージで撮影されたもの。科学者であり技術責任者のグロリア・ホリスター・アナブルが帰還した潜水球を点検している。アナブルは潜水中の乗組員との通信を維持する役割を担っていた。(PHOTOGRAPH BY JOHN TEE-VAN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

史上初の有人深海探検を支えた3人の女性、写真16点

2020.03.07
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 1930年、水中探検家のウィリアム・ビービとオーティス・バートンが潜水球という小さな鋼鉄製の球体に乗り込み、バミューダ沖の大西洋に潜った。潜水球による世界初の本格的な有人深海探検であり、間もなく、国際的なニュースになった。

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「深さ400メートルの海に潜ると、全く新しい世界が広がっていました。火星の風景と同じくらい不思議な世界でした」。ウィリアム・ビービ(左)はオーティス・バートン(右)との水中探検をこう振り返っている。(PHOTOGRAPH FROM WILLIAM BEEBE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 ビービは1931年、ナショナル ジオグラフィックの記事で、「火星や金星にも匹敵する未知の世界」だったと振り返っている。さらに、ビービは当時の海洋学をアフリカの動物を研究する学生にたとえ、げっ歯類については学んでいるが、まだゾウやライオンの存在すら知らない状況に近いと説明している。

 地上では、この大胆な新装置をスムーズに運用できるよう、女性科学者のグループが支援を行っていた。ボートの甲板では、研究助手のジョスリン・クレーン・グリフィンが海洋生物の特定を手伝った。電話サポートを行ったのは、野生生物保護協会の前身ニューヨーク動物学協会の熱帯研究局で主任研究員を務めていたグロリア・ホリスター・アナブルだ。熱帯研究局はこのミッションの支援者だった。

 ボートと潜水球をケーブルでつないだこの電話回線は、ビービにとって唯一の外界との接点、つまり命綱のようなものであり、必ず誰かが応答することになっていた(ヘッドホンを装着し、木箱に座るアナブルの写真が残されている。キャプションには次のように書かれている。「通信が途切れたとき、雑音が原因なのか、命に関わる事故が起きたのか、彼女には知るすべがなかった」)。

ギャラリー:史上初の有人深海探検を支えた3人の女性、写真16点
ウィリアム・ビービは水深数百メートルの海で見たものをグロリア・ホリスター・アナブル(手前の女性。バミューダの潜水球本部で撮影)に電話で説明した。船上では、ジョスリン・クレーン・グリフィン(中央の女性)が海洋生物の特定を手伝い、その後、エルゼ・ボステルマン(ドアの近くに立っている女性)が幻想的な絵を描いた。(PHOTOGRAPH BY JOHN TEE-VAN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 アナブルとビービは気さくな会話を交わし、ビービが深海生物を見つけたときは、アナブルがビービの説明を文字に起こした。1930年6月19日の午後、アナブルは水深約250メートル地点からの報告を次のように書き起こしている。「遠くできらめく小さな光。色は淡く、緑を帯びている。ウナギ。1匹は暗い色、もう1匹は明るい色。大きなムネエソが近付いてくる。正面から見たら虫のようだ」。アナブルは深度や時間、天候などの情報をビービに伝えた。

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エルゼ・ボステルマンはその絵で未知の深海生物に命を吹き込んだ。左は魚を捕まえたフクロウナギ。右はスカーレット色のヤムシの間を泳ぐ尾のないウナギ。(ILLUSTRATION BY ELSE BOSTELMANN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 潜水が終わるたび、ビービのスケッチと文字に起こした説明はバミューダの研究所で待つエルゼ・ボステルマンに届けられた。ボステルマンはそれらを基に、ドラマティックな絵を描き上げた。潜水球から海を眺めることはなかったが、ボステルマンはしばしば潜水用ヘルメットをかぶり、油絵のパレットに絵筆をくくり付け、カンバスを水中に持ち込み、インスピレーションを得るために絵を描いた。

 ボステルマンは後に、海の中はまるで「おとぎの国」で、浅瀬で出会った青いエンゼルフィッシュや赤いイットウダイは「1匹または群れでカンバスを追い掛けたり、周りで遊んだりしていました」と振り返っている。巨大な牙を持つ魚、サイケデリックな甲殻類、見たこともない黒い魚。ボステルマンが描いた幻想的な海洋生物たちはナショナル ジオグラフィックにも掲載され、ビービらの探検に命を吹き込んだ。

次ページ:ビービはなぜ女性を雇ったのか

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