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目の前で逮捕されたデモ隊の少年(2019年8月31日)(Photograph by Michiko Kiseki)
2019年6月の大規模な抗議デモから半年。7月から香港に滞在してきた日本の写真家キセキミチコ氏が、香港で今起きていることを、抗議活動を行う若者たちの視点でとらえた。
「逃亡犯条例」改正案に端を発した抗議デモが続く香港。半年が経過した現在も、民主化を求める香港の人々が声を上げ続けています。
「香港の人たちの生きるパワーがどこから来るのか」。私はそれが知りたくて、今年7月から香港に住み込み、約5カ月間デモの最前線で撮影をしてきました。デモを追い、そこで戦い続ける若者から見えてきたものは、「自分たちの未来のため」という強い思いでした。
2019年8月31日、デモを取材していたわたしの目の前で逮捕されかけた一人の少年。彼は私の腕をつかみ、広東語で必死に何かを訴えかけました。しかし、広東語を理解できない私には何もできず、彼はそのまま4〜5人の警察に引き剥がされ、何度も警棒で殴られました。
彼がその後釈放されたのかも、今無事でいるのかもわかりません。何もできなかったショックと、この現実を知って欲しいという思いで、私はデモを撮り続けることを決めました。
顔を隠さなければ戦えない中でも、戦い続ける若者たち。
「香港は家賃が高い。高学歴が求められる。中国化していく中で居場所も減っている。もし、今デモがなかったとしても、香港で生活するのは辛い。生きていくだけでプレッシャーがすごくある。でも、香港生まれ、香港育ちの私たちに、逃げる場所はないんです」と、ある香港の若者は話します。
SNSが一部規制されて発言の自由も失われるなど、「香港人」としてのアイデンティティが失われつつある状況への「怒り」が、半年間も戦い続ける彼らを突き動かしているのです。
「捕まったとしても、どうなったとしても、今戦わないと一生負けるから」と。
デモ隊と警察が激しく衝突した香港理工大学では、残された火炎瓶の処理の際に指紋採取が行われていました。警察の記録や監視カメラ映像によってこれまでのデモ参加者が洗い出され、逮捕されていくのです。
香港警察が使用している中国製の催涙弾は、燃焼温度250度にまで達します。催涙弾が背中へ直撃し、大火傷を負った救援ボランティアもいました。誰もいなくなった真夜中の街中でも、催涙ガスの強烈な刺激と異臭は残り、目に見えない攻撃が続いています。
強硬姿勢を強める香港警察に対し、最前線のデモ隊たちは時に戦うこともあります。
「破壊行為は間違っている。民意が離れてしまう。しかし、こんな方法でしか政府に訴えることができなくなってしまった原因は、市民の声に応じない政府にある」と、デモに参加していた市民がわたしにこう話してくれました。
さらに、「自分たちの香港は、自分たちで救う。でも、犠牲になった人、行方不明になった人がいることを忘れないで欲しい。それだけでいいんだ」と彼らは言います。
私が香港で抱いた悲しみと、これ以上傷ついて欲しくないという祈りを込めて、今回写真展を開催いたします。
香港で何が起こっているかを知って欲しい。それだけが私の願いです。
2019年6月の大規模な抗議デモから半年。7月から香港に滞在してきた日本の写真家キセキミチコ氏が、香港で今起きていることを、抗議活動を行う若者たちの視点でとらえた。