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南米コロンビア北部、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ山地。標高約4800メートル付近にあるナボバ湖のほとりで、先住民アマド・ビジャファニャさんが祈祷する。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN FERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

先住民が守る聖なる山、部外者を拒む巡礼の旅に同行した(前編)

2019.12.21
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 南米コロンビアの北端に位置する山地、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ。標高4800メートルほどにある岩がちできつい傾斜を、18人の男女が登っている。現地の先住民、アルワコ族の一団だ。

 白いチュニック(上着)を着て、手織りのバッグを肩に掛け、男性は円錐形の白い帽子を頭に被っている。一行は、くぼみになった場所で小休止を取った。空気が薄く、みな胸が小刻みに動いている。

 世界が創造されたとき、まさにこの場所から自分たちが生まれたのだと、先住民アルワコ族は言う。この場所を、彼らは「母」と呼ぶ。

シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ山地。サンゴ礁から氷河まで、地球の環境が凝縮されている。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN FERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタには標高5~6000メートルの峰々がそびえ、海に面した山地としては世界一の高さを誇る。宇宙から見ると、巨大なピラミッドがカリブ海から飛び出しているかのようだ。なかでも標高の高い山を「外の世界の人たち」はシモン・ボリバル山、クリストバル・コロン山、グアルディアン山、ラ・レイナ山と呼ぶ。だが、アルワコ族は、この雲上の世界を「チュンドゥア」と呼んでいる。大まかに言えば、天国という意味だ。(参考記事:「よみがえる 先住民の大地」

 ある意味、シエラ・ネバダには地球が凝縮されている。サンゴ礁、砂浜、砂漠、熱帯雨林、乾燥熱帯林、サバンナ、パラモ(高地の草原地帯)、ツンドラ、高山湖、氷河まである。そのすべてが生きていて、傾斜に沿って切れ目なくつながり、1歩登るごとに変化していくようだ。

 動物や植物も豊かで、ハチドリやインコ、ヤシの木などの仲間で、地球上でこの地方にしかないものも多い。さらに専門家の間で「世界で最も絶滅に近い両生類」とされるハーレクイン・フロッグが、少なくとも4種いる。

ギャラリー:先住民が守る聖なる山、部外者を拒む巡礼の旅へ 写真20点(写真クリックでギャラリーページへ)
アルワコ族の長老アドルフォ・チャパロさん(左、後ろ姿)が儀式を取り仕切る。アルワコ族は、定期的にグループでシエラ・ネバダに登り、儀式を行う。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN FERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 だが、この静かな風景は困難に直面している。地球温暖化が進むにつれ、氷河が消えているのだ。過去150年で、この山地から氷の92%余りが消えた。そして科学者たちは、残りの氷河も今後30年以内に消えると予測している。そうなれば、この山脈から流れ下って生命を支える35本の川は細り、生態系を支える多様な動植物は危機にひんするだろう。アルワコ族だけでなく、平地に暮らす多くの人々の生活も危うくなる。参考記事:「ヒマラヤの氷河消失速度が倍に、スパイ衛星で判明」

 こうした豊かな環境は、人間活動のない状態でしか存続できないのではないか。現代社会に生きる私たちは、ついそんなふうに考えてしまう。だがシエラ・ネバダの場合、人が住んでいることが、逆に防波堤になってきた。3万5000人のアルワコ族に加え、合計で約5万人を数えるコギ族、ウィワ族、カンクアモ族がいる。記憶されている限り、彼らは「よそ者」、つまり我々を入れないことで、シエラ・ネバダを守ってきた。(参考記事:「アマゾン熱帯雨林を守る先住民の活動」

次ページ:人類の危機を世界に知らせるメガホンに

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