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タラ・ローダ氏の微生物アート、題して「経度を垂れ流す緯度」。(PHOTOGRAPH BY AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY AGAR ART 2019 CONTEST, “LATITUDES LEAKING LONGITUDES,” TARAH RHODA)

鮮やかな彩りに絶句 生きている微生物が描いた傑作アート

2019.11.25

 人と微生物との関係はずっと複雑なままだ。微生物を、病気の原因となる「病原菌」として恐れながら、その一方で発酵食品の生産に活用している。「微生物学の父」として知られるアントニ・ファン・レーウェンフック(1632年〜1723年)が、顕微鏡で微生物を初めて観察したのは1670年代のことだ。しかし、研究室で簡単に培養できるようになるまでには、数百年を要した。

「微生物アート」は、その微生物の培養を利用した芸術だ。研究室で広く使われる培地をキャンバスにして微生物を培養し、線や絵、最近ではオブジェまで作り出す。(参考記事:「“微生物学の父”レーウェンフックは何を見たのか」

 米国微生物学会(ASM)は、2015年から微生物アート・コンテストを主催している。今年は「プロ」(研究者が対象)、「制作者」(研究者ではない一般の人)、「キッズ」(子供)の3部門に、合計347作品の応募があった。応募者は作製した微生物アートの写真を提出し、ASM職員がカテゴリーごとに作品を審査。さらに一般の人たちによるソーシャルメディア上での投票で決める一般投票賞も設けられた。

ギャラリー:生きている微生物で描いた驚きのアート作品15点(写真クリックでギャラリーへ)
2019年のプロ部門で1位に輝いた鯉とハスの花を描いた作品。寒天上に9種の微生物を培養して描いている。(AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY AGAR ART 2019 CONTEST, 1ST PLACE. “SEEMINGLY SIMPLE ELEGANCE,” ARWA HADID)

 2019年の受賞者は、2019年11月20日に発表された。プロ部門の最優秀賞は米オークランド大学のアルワ・ハディド氏の鯉とハスの花を描いた作品で、制作者部門はコーリー・アブラム氏の微生物による自画像、キッズ部門はケイト・リン氏の世界のつながりを表す「生命の輪」、一般投票賞はSYNLABハンガリーに勤務するジータ・ペシュティーニ氏の「ハンガリーの民芸」が獲得した。

培地に寒天を見つけるまでの道のり

 微生物学者は当初、ジャガイモから凝固させた卵白や肉にいたるまで、さまざまな食品を用いて微生物を培養した。細菌と病気を関連づけた一連の原理で知られるロベルト・コッホ(1843年〜1910年)は、固体で透明、かつ殺菌できるものを使って細菌の培養法を改良したいと考えていた。当初はゼラチンが適していると思われたが、問題があった。微生物の培養によく用いられる温度である37°Cで、液化してしまうからだ。 (参考記事:「アステカ人の大量死、原因はサルモネラ菌か」

 ドイツのコッホの研究室で助手兼イラストレーターを務めていたアンジェリーナ・ヘッセ(1850年〜1934年)は、ゼリーやプリンに使われる材料が、より良い培地になることを発見した。これが海藻から分離したゼラチン状の物質、つまり寒天だった。

ギャラリー:生きている微生物で描いた驚きのアート作品15点(写真クリックでギャラリーへ)
2019年のASMのコンテストで一般投票賞に輝いたジータ・ペシュティーニ氏の作品「ハンガリー民芸」。3枚の寒天培地に5種の微生物を使って描いた。(AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY AGAR ART 2019 CONTEST, PEOPLE'S CHOICE. “HUNGARIAN FOLK ART,” ZITA PÖSTÉNYI)

 こうしてコッホは、病原となる結核菌「Mycobacterium tuberculosis」を培養するのに、最終的に寒天にたどり着いた。残念ながら、アンジェリーナが称賛されることはなかったが、この発見は、微生物の培養法に革命をもたらしたのである。(参考記事:「2013年1月号 小さな細菌の世界」

 培養に使う寒天培地(寒天平板培地)の作り方を説明しよう。まず寒天粉末に栄養分と水を混ぜ、高圧下で加熱して殺菌し、シャーレに注ぐ。これを冷却すると固化し、半固体状の滑らかな表面になり、それまで使われていた食品を用いた培地より微生物の培養に適していた。

 科学者は、多様な微生物のニーズに合わせ、さまざまな寒天培地を作製してきた。おかげで、さまざまな色の微生物を培養できる、斬新なキャンバスとなった。ペニシリンを発見した科学者アレクサンダー・フレミング(1881年〜1955年)は、微生物アートをいち早く試した1人だった。だが、微生物アートは、何十年も注目されなかった。

【動画】微生物アートができるまで(解説は英語です)
2015年の微生物アート・コンテストの優勝者が、微生物アートの作品が出来上がる様子を撮影したタイムラプス動画。寒天平板に微生物で描いた花を咲かせた植物が現れる。赤にはセラチア(Serratia)属、白にはバチルス(Bacillus)属、黄色にはネステレンコニア(Nesterenkonia)属の微生物を使った。(MEHMET BERKMEN, NEW ENGLAND BIOLABS; MARIA PEÑIL COB)

次ページ:生きているアートは急速に進化している

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