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数百年もの間、カリブの先住民族であるタイノ族は絶滅したとされてきた。しかし、最近になって歴史家とDNA検査によって、自分たちはタイノ族であると主張する多くの現代人の正しさが改めて確認された。国勢調査でタイノ族が調査項目から外され、「紙上の大量虐殺」が起こっていたが、彼らの民族としての意識は生き残っていた。この写真に写るジョージ・バラクテイ・エステベス氏は、米ニューヨークのタイノ族コミュニティを主宰している。写真家の阪口悠氏と協力して、現代のタイノ族を描き、過去の国勢調査をやり直した。(PHOTOGRAPH BY HARUKA SAKAGUCHI)

歴史から抹殺されたカリブのタイノ族、復活の肖像、写真8点

2019.10.20
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 私は、ドミニカ共和国のハイボンという町で生まれ、米国で育った。子どもの頃、カリブ海の島々には先住民の血が一滴も残されていないと、本で読んだ。インディアンはひとり残らず殺されたと。しかし、私たちは常に自分たちが先住民であると意識してきた。私たちには、インディアンの祖先がいることを知っていた。

 90年代初め、私たちは各地で開催される先住民のイベントやフェスティバルで集まるようになった。そして、私たちの知っている言語や今も残る伝統を維持する運動を始めた。

 その後、DNA検査によってカリブの人々に先住民のミトコンドリアDNAが含まれていることが確認された。全プエルトリコ人の61%、ドミニカ人の23~30%、そしてキューバ人の33%に、それは含まれていた。絶滅したとされている民族にしては、あまりに高すぎる割合である。2016年、デンマーク人の遺伝学者が、バハマで発見された1000年前の頭骨の歯からDNAを抽出したところ、タイノ族の完全なDNA鎖が見つかった。プエルトリコ人164人を調べると、全員がそのタイノ人と言えるDNAを持っていた。

ジプシー・ラニングクラウド(48歳)
ジプシー・ラニングクラウド(48歳)
「幼いころから、一家の長老たちによって私は先住民としての自分のルーツについて堅く口を閉ざすべきであると教えられてきました。先住民族であることは決して明かしてはならないものであるという考えを、他の文化によって押し付けられてきたのです。誰かに先住民に『似ている』と言われたときには、ただ黙ってうなずくのが礼儀であるとさえ思っていました。私もいとこたちも、先住民としてのルーツを公に認めることはタブーとされていたのです」(PHOTOGRAPH BY HARUKA SAKAGUCHI)

歴史に復活しつつあるタイノ族

 私たちは、自分たちの存在を歴史に書き入れる作業を行っている。そのために、インターネットは非常に役に立つ。現在、自分はタイノ族であると自認する多くの若者が協力して研究に携わり、新たな疑問を持ち、古い回答に疑問を呈している。こうして、タイノ族は文書に書き加えられ、歴史に復活している。一部の歴史書は、タイノ族に関して「絶滅」という言葉を削除した。

 また、国勢調査の変革にも取り組んでいる。長い間、国勢調査の人種欄にはヒスパニック、白人、黒人、ミックスという選択肢しかなく、ラテンアメリカ出身者はインディアンを選択したくてもできなかった。プエルトリコの国勢調査にインディアンまたは先住民という選択肢が加えられると、3万3000人がインディアンを選択した。私たちの正体は、いつだって目に見えて明らかであったはずなのに、これまで隠されてきた。それこそが、この写真プロジェクトが伝えたいことだ。

レネ・J・ペレス(33歳)
レネ・J・ペレス(33歳)
「4歳か5歳の頃だったでしょうか。母に『僕たちは何なの?』と聞いたことがあります。母は『タイノよ』と答えました。タイノとは何かとさらに聞くと、『インディオ』だと言われました。インディオとは、スペイン語でインディアンという意味なので、私は自分のことをインド人だと思っていました。もちろん大きくなってからは、母はカリブに先住していた民族のことを言っていたのだと理解するようになりましたが」(PHOTOGRAPH BY HARUKA SAKAGUCHI)

 タイノ族は完全に抹殺されてしまったのではないということを、世界に知ってもらいたい。それどころか、私たちはカリブ諸国の建国に重要な役割を果たした。この物語を知ることは、私たちにとっては長く行方不明だった親戚を見つけ出すようなものだ。これまで知らなかった自分を発見することだ。私たちの口頭伝承、物質文化、精神、そして言語の大部分がこの土地に固有のものだと気付いたとき、私はタイノ族がいかに繁栄した人々であったかに気付いた。

 子どもの頃、学校でコロンブスについて習った時のことを思い出す。かっこいい冒険話に胸を弾ませ、3隻の小さな船の絵を描いた。ところが、家に帰ると母親が本当のことを話してくれた。衝撃的だった。コロンブスの黄金と名声への欲のために、何百万という人々が命を落とした。現在、カリブの人々あるいは先住民族だけでなく、広い世界で、コロンブスはさほど称賛に値するような人物ではないと考えられるようになったのは、喜ばしいことだ。

 祖先の歴史を振り返り、またスペイン人の行った恐ろしい行為について考えるとき、自分の目の前で子どもや親兄弟が惨殺され、レイプされ、村が略奪されるのをただ見ているしかなかった祖母や母たちは、何を感じたのだろうかと思いを馳せることがある。彼女たちはきっと、激しく祈っていたに違いない。苦しみに遭ったすべての人々がそうするように。では、その祈りはどうなったのか。キャンプファイヤーの煙のように、空へ消えてしまったのだろうか。そして、私は気づいた。私たち子孫こそが、彼女たちの祈りへの応えなのだと。私たちが誤りを正すため、自分たちの物語を伝えるために、ここへ戻ってきたのだと。

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談=Jorge Baracutei Estevez/構成=Nina Strochlic/写真=阪口悠/訳=ルーバー荒井ハンナ

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