Photo Stories撮影ストーリー

油とガソリンを混ぜた液体をまいて点火し、炎が広がるのを見つめる男性。森がなくなれば、ここはウシの牧場になる。(PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES)
ブーショがこちらを振り返って言った。「君がやれよ」。一瞬考えてから、わたしは首を振り「やらない」と返す。「やりなって」
彼らと同じように働きたいと思ってはいたが、悪事に手を貸すのはごめんだった。わたしの神経は張り詰め、心臓が早鐘のように鳴っている。ブーショはすっかり興奮しており、ニヤニヤ笑いを止められないようだ。
彼の足元に積もる落ち葉の上には、黒光りする液体がかかっている。油とガソリンを混ぜたそれは、ブーショが左手に持つ古いミネラルウォーターのボトルからまかれたのだ。わたしに向かってからかうように首を振ってから、ブーショは腰をかがめ、ライターを使って黒い液体に点火した。
彼が手を引っ込めると同時に、火が炎となって燃え上がる。数秒のうちに、炎が周囲の葉に広がると、上方の枯れ枝に燃え移った。1分もたつ頃には、炎は3メートルの高さになり、地面にたっぷりと積まれた枯れ枝の中を燃え進んでいた。
この瞬間を、彼らは1年以上前から計画していた。木々は昨年のうちに切り倒され、乾期の終わりに燃やせるようにと、雨期の間もずっと放置されていた。
ブーショの父親のディーノが歓声を上げ、パチパチと弾ける炎の音に負けじと、わたしに向かって声を張り上げる。
「何年かしたら、ここでウシを飼えるぞ」
わたしはディーノの写真を撮ろうとしたが、火の勢いが激しすぎた。カメラは顔にあたる熱を一瞬だけ遮ってくれるものの、手が火にあぶられ、指の毛がチリチリと焼けてきたため、急いで後ろに下がるしかなかった。
またたく間に広がる巨大な炎に焼かれる森を間近に眺める気分は、とても言葉では言い表せない。そのパワー、恐怖、体を駆け巡るアドレナリン。顔の皮膚が剥がれるかと思うほどの想像を絶する熱が、目に見えない壁のように迫ってくれば、もう走って逃げる以外の選択肢はない。
10分もしないうちに、あたりは炎が荒れ狂う地獄と化していた。ディーノがわたしのところへ走ってきて、早く森の中の安全な場所まで逃げろと急かした。
ディーノとその家族の家に、わたしは10日ほど前から滞在していた。わたしは彼らが熱帯雨林でどんな風に暮らし、どんな風に働いているのかを知りたいと思っていた。
彼らは森を焼き払って牧場を作っている、いわゆる“悪人”だ。アマゾン西部の大半が破壊されたのは彼らのような人々が原因であり、こうしたやり方はもう何十年も前から続けられている。
わたしは彼らの家に泊まり込み、彼らと一緒に働いた。子ウシに焼き印を押し、ウシにワクチンを注射し、ウシを解体し、ブタをつぶし、フェンスの修理をした。両手は水ぶくれができ、乾いた血がこびりついて、ひどいありさまになった。
夜には、ディーノが抱える大勢の家族と一緒にテーブルにつき、肉を焼いてビールを飲みながら談笑した。わたしはすぐに彼らのことが大好きになり、これまで出会った中でもとりわけ温かく優しいこの人たちに、すっかり魅了された。そして、もし彼らが“悪人”だというのなら、それは間違った烙印なのではないかと考えるようになった。