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台湾、高雄のホテルからライブストリーミングを行うララ(35歳)。7万5000人近いフォロワーを獲得しているライバーだ。まだ幼い娘モンモンちゃんをアパートに置いて仕事に出掛け、さまざまなホテルの部屋に一人きりで座り、携帯電話で見ている人々に笑顔を振りまく。(PHOTOGRAPH BY JEROME GENCE)
ライバーの舞台裏
ライブストリーミング界のルールは国によって異なる。
ジェンス氏とリン氏が最初に立ち寄ったのは、中国の西安と北京にオフィスを持つライブストリーミングエージェンシー「レードゥー・メディア」だ。中国では、すべてのライバーが監視下に置かれ、政治の話題を配信することは禁止されている。2人が会ったライバーたちも例外ではなく、厳格な規則を課され狭い空間に暮らしていた。対照的に、台湾で出会ったライバーたちは自宅でライブストリーミングを行っていた。最後に2人は、韓国最大のライブストリーミング企業「アフリカTV」のライバーたちを訪ねた。中国とは違って、台湾、日本、韓国のライバーは政治的な議論も許されており、エージェンシーに所属する必要はない。
ライバーの仕事は心身に害を及ぼすことがある。まず、深夜がピーク時間にあたるため、睡眠は不規則で、疲れもたまる。韓国には、カメラの前で大量の食べ物を食べる「モクバン」と呼ばれるジャンルがある。このジャンルで活躍するライバーは肥満になりやすい。一部のライバーは食べた後に下剤を飲むなどしており、健康への影響もある。実際、心不全になったライバーもいる。
台湾の有名ライバー、ララは仕事に出掛けるとき、5歳の娘モンモンちゃんをアパートに置いていく。ララの母親はジェンス氏とリン氏に、娘には「本物の人間関係がないのではないか」と話していた。17メディアのアプリ「ライブAF」で、ララが7万5000人ものフォロワーを獲得しているにもかかわらずだ。
ライバーの成功はデジタル世界での人気とイコールだ。ファンを喜ばせたい一心で、不健全な行動を続けるライバーもいる。視聴者が離れることは、ライバーにとっては収入源が失われることを意味する。
「ライバーたちは常に不安を感じています。ファンたちがいつまで好きでいてくれるかわからないためです」とリン氏は語る。「ファンたちは指をスワイプするだけで、次のライバーのセッションに、簡単に切り替えることができますからね」
ライバーの仕事だけで生計を立てている人はほとんどいない。中国のソーシャルメディアアプリ「ウィーチャット」が2016年に公表したデータによれば、90%以上のライバーが仕事を持ち、2年以上活躍し続けるライバーはわずか17%だ。
もちろん、17メディアのような企業は利益を得ている。「最終的な勝者はプラットフォームですよ」とリン氏は言う。
格好のターゲット
32歳のコンフーさんは台湾、苗栗の実家で両親と暮らしている。コンフーさんは女性とキスしたことがなく、現実世界の女性よりネットのライバーの方が愛情を表現しやすいと感じている。でも、両親に知られたときの反応を恐れ、お気に入りのライバー、ユートンを見ていることは秘密にしている。
コンフーさんのように、孤独を紛らわすためライブストリーミングを見ている独身男性は多い。若い男性が都市部の工場で働くため、家族が暮らす村を離れるアジア諸国では、こうした独身男性が多いのだ。近所に知人がなく、新しい環境でも孤独を感じないよう、彼らはライブストリーミングに依存する。 (参考記事:「研究室に言ってみた。依存症は厳罰主義では解決しない」)
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