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ギゼラ・ウンテルシュパンさんは、ソ連軍が、東プロイセンの町ケーニヒスベルクに侵攻してきた際、家族と離れ離れになった。

第二次世界大戦が生んだ「オオカミの子どもたち」苦難の人生 写真12点

2019.08.15
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 第二次世界大戦終結後、親を失った多くの子どもたちが、戦後の混乱期を自力で生き抜かなければならなかった。かつてナチス・ドイツが支配していた東プロイセンでも、親と離れ離れになったドイツ人の子どもたちが、社会から見捨てられ、まるで腹を空かせたオオカミのようにさまよい、森のなかで生き延びていた。彼らはやがて「オオカミの子どもたち」と呼ばれるようになった。(参考記事:「ナチスによる原爆開発はこうして阻止された」

 米ウィスコンシン大学の歴史学教授ミシェル・モウトン博士は、終戦直後の地政学的政策決定に関して、英国労働党が1944年に発表した声明文を引用し、次のように説明する。声明文のなかで労働党は「終戦直後、被占領国においてはドイツ人に対する根深い憎悪」が懸念されるため、ドイツ人は「移住するか大量虐殺されるか」のいずれかの選択を迫られるだろう、との考えを明らかにしていた。少なくとも建前上は「連合国側は大量虐殺を望まなかったため、移住することで合意した」という。(参考記事:「シベリアの果てから1万3000キロ! 嘘みたいなサバイバル脱出劇」

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ラインハルト・ブントさんは、自宅が空爆された後、東プロイセンからリトアニアへ逃れた。
ラインハルトさんは1936年生まれ。3歳の時に戦争が始まった。

 こうして、東プロイセンではドイツ人の追い出しが始まったが、それによって生じた混乱で家族は離れ離れになり、子どもたちのその後の運命は大きく変えられてゆく。ソビエトの孤児院へ送られた子もいれば、隣国のリトアニアへ逃げ延びた子、東西に分割されたドイツへたどり着いた子もいた。数えきれないほどの子どもたちが、その後不慣れな土地への同化を強いられながら成長することとなる。こうした行き先は、子どもたちにとって必ずしも寛容な環境ばかりではなかった。

 リトアニアへ逃げた「オオカミの子どもたち」は、一番多感な時期に、自己意識を形成するのに重要な、言語、家族、住む場所を奪われた経験を持つ。そして、最低限の教育しか受けられず、過酷な状況の下で働き、社会から隠れるように暮らしてきた。手を差し伸べてくれるリトアニア人もいたが、そうした支援すら、ある日突然途絶えてしまうことがあった。リトアニアは当時、ソビエトの支配下にあり、政治や社会からナチスの影響を徹底的に排除し、ドイツ人の連帯責任を追及するソ連の政策に追従していた。ドイツ人の子どもたちは、かつて自分たちを優遇するために設計された体制の崩壊によって、まったく逆の立場に置かれることになった。(参考記事:「ナショナル ジオグラフィックに潜入したナチス」

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リトアニアに住む多くの「オオカミの子どもたち」のもとには、親戚から、幼いころの家族との思い出の品が届けられる。こうした子どもたちは、ほとんどすべての持ち物を東プロイセンに残してきてしまったからだ。写真は、古い家族写真を眺めるラインハルトさん。(PHOTOGRAPH BY LUKAS KREIBIG)

 写真家のルーカス・クライビッヒ氏は「オオカミの子どもたち」について最初にどこで読んだのか記憶していないが、彼らの知られざる物語は、同氏の心に強烈な印象を残した。デンマーク・メディア・ジャーナリズム学校で学んでいたクライビッヒ氏は、2017年に始めた写真プロジェクトを通して、東プロイセンの子どもたちのその後をもっと知りたいと思った。調べていくうちに、オオカミの子どもたちに関する本を出版した写真家のクラウディア・ヘイネルマン氏に出会った。ふたりは、ルイーズという名の元オオカミの子どもの協力を得て、他のオオカミの子どもたちを紹介してもらった。そして、ふたつの別々のプロジェクトをスタートさせた。クライビッヒ氏はプロジェクトが2本進行することに関して「彼らの物語と人生が様々な形で伝えられれば、より多くの人々に知ってもらえます」と語る。

 悲惨な戦争の最後の目撃者である子どもたちのことをぜひとも伝えたい、と強く感じたクライビッヒ氏は、歴史の陰に隠されていたオオカミの子どもたちの老いゆく姿を、素顔のまま撮影することにした。

次ページ:傷跡のように残る記憶

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