Photo Stories撮影ストーリー

装甲をもつキリギリスの新種。攻撃されると、自分の血を相手の目に噴きつけるという。(PHOTOGRAPH BY PIOTR NASKRECKI)
アフリカ南東部、モザンビークのゴロンゴーザ国立公園が、内戦による15年間の荒廃から復活しつつある。(参考記事:「内戦で壊れたアフリカの自然は再生できるか モザンビークのゴロンゴーザ国立公園」)
モザンビーク政府とグレゴリー・C・カー財団が提携して、密猟をほぼ完全に撲滅。完全に失われていた数種(シマウマやリカオン)を再導入し、ゾウ、インパラ、アフリカスイギュウといった動物たちの数を着実に回復させた。(参考記事:「牙のないゾウが増えている、原因は密猟」)
こうした大型哺乳類は象徴的ではあるが、生態系の中ではごく一部でしかない。ゴロンゴーザの健全さを示すには、ほかの生き物たちについて知ることも大切だ。鳥や爬虫類、両生類、そして昆虫、クモ、サソリといった無脊椎動物たちの現状を、専門の科学者たちが調べている。
ポーランド生まれの昆虫学者で、ゴロンゴーザの生物を紹介するウェブサイトを運営しているピオトル・ナスクレツキ氏は、無脊椎動物を動物界の「小さなマジョリティー」と呼ぶ。ナスクレツキ氏ら専門家チームは年に数回、ゴロンゴーザで数日にわたる調査を行い、見つけた動植物を一つ一つ同定する。
「存在することさえ知らないものを、守ることはできません。これが基本原則です」とナスクレツキ氏は言う。
小さな生命を追って
筆者はこの調査に同行することにした。場所は、かつて狩猟が許可され、このほどゴロンゴーザ国立公園に追加された、第12猟銃保護区だ。
日没までの数時間、テントの外で誰もが忙しく働いていた。ナスクレツキ氏は、彼の専門であるキリギリスの鳴き声を識別するための音波実験の準備。米国の生態学者ジェン・ゲイトン氏は、コウモリを捕獲するかすみ網の設置。別のポーランド人昆虫学者は、夜行性の昆虫を集めるために大きな白い幕を張っていた。
夕食のスパゲッティを食べると、夜の仕事が始まった。午後9時には、ゲイトン氏はコウモリを6匹捕まえていた。その中には、デッケンズ・キクガシラコウモリ(学名Rhinolophus deckenii)も2匹いた。ほとんど知られていないアフリカ東部の種だ。
ゲイトン氏は、やはり希少なコウモリであるドブソンズ・アブラコウモリ(学名Pipistrellus grandidieri)を探していた。前年の調査で彼女が捕まえるまで、アフリカ南部では100年以上目撃されていなかった。この夜、網にかかったのはデッケンズであり、ドブソンズの気配はなかったが、探索は翌日以降も続くことになった。
翌朝、私たちは森の切れ目に向かって、やぶを切り開きながら進んだ。途中、私たちにとって万能の自然ガイドであるナスクレツキ氏のおかげで、ツチブタの巣穴、ジョロウグモ、大きなフンコロガシ、シロアリ、小さなアリなどを観察することができた。
なかでもこのアリは、あまりにも微細で見えにくいため、ナスクレツキ氏の師であるエドワード・O・ウィルソン氏だけが、前回の野外調査で識別したものだ。ナスクレツキ氏が、そのときの様子を話してくれた。(参考記事:「【動画】傷ついた仲間をアリが救助、巣が1.3倍に マタベレアリ」)