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記者会見にのぞむワイルドボアーズ・サッカーチームのメンバーとコーチ。中央のアドゥル・サモンくんは、洞窟内で最初に発見されたとき、英国人ダイバーと英語で会話した。(PHOTOGRAPH BY LINH PHAM, GETTY IMAGES)

タイ洞窟に閉じ込められた少年たち、救助の物語「残された唯一の選択」

2019.03.17

 2018年夏、タイの洞窟で少年サッカーチームが行方不明になってから数日後、世界各地で携帯電話が鳴らされた。電話を受けたのは、英国の元消防士とITコンサルタント、オーストラリアの元獣医に麻酔医だ。いずれも、どこにでもいる普通の中年男ばかり。彼らにひとつだけ共通していたのは、世界屈指の洞窟ダイバーだったということだ。

 電話は短く、用件だけが伝えられた。長々と説明している余裕はない。タムルアン洞窟の水位は急速に上昇し、モンスーンの雨も近づいていた。11歳から17歳の12人の少年とそのコーチは、洞窟に閉じ込められたままおぼれてしまうかもしれない。洞窟ダイバーたちは取るものもとりあえず、タイ北部のチェンライ県へ飛んだ。

 世界中のメディアが見守るなか、現場には米国、オーストラリア、中国の軍、レスキュー隊も集結、屈強なタイ海軍特殊部隊が陣頭指揮を執っていた。

タイの救助隊と世界中から集まったボランティアが、洞窟の前に集結した。(PHOTOGRAPH BY LILLIAN SUWANRUMPHA, GETTY IMAGES)
タムルアン洞窟の中でポンプを使って懸命に排水作業を行うタイの救助隊。モンスーンの影響で、巨大な洞窟の内部には大量の水が流れ込んでいた。(AND PHOTOGRAPH BY ROYAL THAI NAVY/AP IMAGES)

「世界中に洞窟ダイバーは数百人ほどいると思われますが、あそこまでのダイビングができるのはほんの数人しかいません」と、ナショナル ジオグラフィックが支援するオーストラリアの麻酔医リチャード・ハリス氏は語る。氏は今回の救助で中心的役割を果たした。

 タムルアンの状況は芳しくなかった。タイに住む外国人ダイバーたちは、海軍特殊部隊とともに、洞窟の入り口から800メートル入った巨大な空間よりも先へ進むことができずにいた。ふだん、洞窟を訪れた観光客が入るのは、たいていここまでだ。行方不明になる前、少年のひとりが洞窟のなかのパタヤビーチという場所へ行くと話していたというが、そこはさらに奥へ800メートル入ったところにある。その方角からは泥水が滝のように流れ出ており、ダイバーたちを阻んでいた。

KATIE ARMSTRONG, NG MAPS

 洞窟ダイビングは死の危険が大きすぎるため、それを専門とする救助隊は、生存者の救出よりも、遺体の回収に駆り出されることのほうが多いという。時には、仲間の遺体を運び出すこともある。英国人ITコンサルタントのジョン・ボランサン氏は、タムルアンでも同じことが起こると予測していた。(参考記事:「【動画】世界最大の水中洞窟を発見、メキシコ」

 少年たちが行方不明になってから4日後、ボランサン氏とダイビングパートナーで元消防士のリチャード・スタントン氏は、現場に到着するとさっそく水の流れに逆らって洞窟の中へ入った。後から入ってくる人のために重いクライミングロープを固定しながら、一歩一歩前へ進んだ。それから4日間、世界中から集まったダイバーとタイの特殊部隊は、真っ暗闇の中1日12~14時間かけて捜索活動にあたった。広い空間に出るたびに水面から顔を出し、少年たちがいないかを確認した。

洞窟から出てきた英国人洞窟ダイバーのジョン・ボランサン氏。(PHOTOGRAPH BY LINH PHAM, GETTY IMAGES)

 10日後、少年たちはまだ発見されていなかった。生存の可能性は最高でも10%と計算する者も現れ始めた。その日ボランサン氏とスタントン氏は、タンクの空気を節約しながら行けるところまで行ってみようと決意していた。ようやくパタヤビーチへたどり着いたが、少年たちの姿はなかった。さらに先へと進んだが、持参した空気の量も残り少なくなっていた。できるだけ空気を長持ちさせるため、水面へ出た時にはタンクのバルブを閉めた。ついに、入口から2.4キロ以上奥に入った第9空間へ到達した。水面へ出てマスクを取ると、途端に異臭に襲われた。

次ページ:「腐敗し始めた遺体の臭いだと思いました」

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