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エチオピア北部の教会。森に囲まれているが、暑く乾いた大地はすぐそこまで迫っている。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)

「教会の森」から始める森林再生、エチオピア 写真18点

2019.01.27
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司祭と研究者は目標を共有していた

 大学で研究を開始した当初、ワシエ氏の興味の中心は、森にどのような生物が暮らしているかということと、消えゆくエチオピア北部の森林環境を守る拠点として、現在残されている森をどのように活用できるかにあった。博士課程の研究の一環として、ワシエ氏は動植物の量を計測した。土の中にはどんな種子がどの程度あるかを調べ、それをもとに森が将来復活して、そこに新たな木が育つことが可能かどうかを推測した。また、勝手に歩き回る家畜が、デリケートな低木層にどの程度のダメージを与えているかを正確に突き止める追跡調査も行った。(参考記事:「シロアリに「森を守る保険」の役割、実験で解明」

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ゲビタ・ギヨルギス教会付近の畑。教会の森を侵食している。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)

 やがてワシエ氏は、自分のエネルギーを、森を守ることに使おうと決意するに至った。森を愛し、敬意を抱いてきた地元コミュニティが、森を守り、復活させられるよう支援したいと考えたのだ。ワシエ氏は、森の手入れをしてきた司祭やコミュニティと深い信頼関係を築き、自然を守るために互いに協力することができるとの確信を得た。

 メキシコで行われたある学会で、ワシエ氏は米国の生物学者メグ・ローマン氏と出会った。ローマン氏は、教会の森に関するワシエ氏の発表に興味を持った。二人は、森を守るために共同で研究を行おうと考えた。ローマン氏には、ワシエ氏の研究に役立つ米国の科学者コミュニティとのコネクションがあり、ワシエ氏には、森についての深い知識と、森の世話をする司祭たちとのつながりがあったからだ。

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ウラル・キダネ教会にて。手の込んだ装飾的な物語絵で飾られた内陣の前で祈る司祭。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)
ウラル・キダネ教会にて。手の込んだ装飾的な物語絵で飾られた内陣の前で祈る司祭。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)
顕現日を祝うティムケット祭の終盤、契約の箱のレプリカが教会内の至聖所に戻されるのを見守る群衆。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)
顕現日を祝うティムケット祭の終盤、契約の箱のレプリカが教会内の至聖所に戻されるのを見守る群衆。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)

 ワシエ氏はローマン氏をエチオピアに招き、150人以上の司祭が参加するワークショップを開催した。多くの司祭が、ワークショップに参加するために何日も歩いて会場までやってきた。二人の科学者は、Google Earthの画像をベッドシーツに投影し、森が時とともにどれだけ縮小してきたかを説明した。

 ローマン氏は言う。「司祭たちは最初からとても熱心でした。それは彼らが自分たちを、神がもたらした生き物すべての管理人だと考えているからです。わたしは科学者として、人間には生物多様性を守る責任があると信じています。わたしたちは目標を共有しているのです」(参考記事:「お尻に顔が!世界唯一の草食ザルが誕生するレアな瞬間 8点」

解決策は壁

 森を守るための最も効果的かつ直接的な方法として、科学者と司祭たちは、簡易な低い壁を築いて森の境界を明確にし、家畜が迷い込んでくるのを防ごうと決めた。(参考記事:「ライオンが毒殺される、アフリカで深刻になる問題」

 翌年までには、壁の建設を開始するのに十分な資金が集まった。この簡単な処置は驚くほどの効果を上げた。じきに、より大勢の司祭から、自分の教会の森に低い壁を作りたいから協力してほしいとの要請がくるようになった。

家畜が森に迷い込まないよう、多くの教会が低い壁を築いている。写真は大木が倒れて崩れた壁と、それによってできた隙間を通って教会へ向かう女性。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)
家畜が森に迷い込まないよう、多くの教会が低い壁を築いている。写真は大木が倒れて崩れた壁と、それによってできた隙間を通って教会へ向かう女性。(PHOTOGRAPH BY KIERAN DODDS)

 それから数年がたった現在、ワシエ氏とローマン氏が壁の建設のために支援したコミュニティは20以上にのぼり、彼らは今後も、数多くの場所に壁を作りたいと考えている。壁が作られた場所では、森が豊かに育っている。効果があまりに高いため、司祭たちの中には、壁を外に押し広げて、森をさらに拡大することを決めた者もいる。侵入者のいない森の中では、周囲の土地よりも水質がよくなり、木の苗木が生き残る確率が高まり、森にとっても周辺の農地にとっても重要な花粉媒介者がブンブン飛び回っている。(参考記事:「虫の羽音を聞く植物を発見、「耳」は花、研究」

「森の大半が破壊されたと聞いたときには、事態は絶望的だと思っていました」とワシエ氏は言う。しかしこの土地には数千カ所もの教会の森が散らばっており、その一つひとつが、ワシエ氏にとっては将来の復活に向けた小さな希望だ。

 この先どれほどの時間がかかろうとも、ささやかな森同士を互いに結び付けることで、地域全体に広がる広大な生態網を復元したいとワシエ氏は考えている。

「教会はプレッシャーにさらされていますが、司祭たちは今あるものを守るために動いています。わたしたちはもっと多くのものを取り戻せるでしょう」

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文=ALEJANDRA BORUNDA/写真=KIERAN DODDS/訳=北村京子

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