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最初に現場に駆けつけた警察官や消防士たちに、感謝の手紙とドーナツを届けるイェシバ(ユダヤ教学校)の生徒たち。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

ユダヤ礼拝所乱射事件、憎悪の犠牲者を悼む街 写真18点

2018.11.06
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 2018年10月27日、ナショナル ジオグラフィックの写真家リン・ジョンソン氏の乗った飛行機がピッツバーグの空港に着陸すると、直後に機長からアナウンスが流れた。飛行機をすぐに降りなければならない医師がいると言う。

 一人の若い女性が、通路を走っていった。「彼女は外傷外科医で、現場に向かっていたのです」とジョンソン氏は言う。

 乗客たちが携帯電話の電源を入れ始めると、ユダヤ教礼拝所であるシナゴーグ「ツリー・オブ・ライフ」で起きた虐殺のニュースが徐々に知れ渡っていった。男が銃を乱射し、11人を殺害したというのだ。(参考記事:「オーランド銃撃事件を世界が追悼、写真11点」

「まるで地元の街で9・11が起こったように感じました」。事件を知った瞬間のことを、ジョンソン氏はそう表現する。

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2018年10月30日火曜日の真夜中、ナショジオのカメラマン、リン・ジョンソン氏が「ツリー・オブ・ライフ」に足を運ぶと、そこには地面に腰を下ろした若い男性がいた。ジョンソン氏と同様、ピッツバーグの住人である彼も、土曜日に銃撃が起きたときには近隣で礼拝に参加していたという。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)
警察によって立入禁止のテープが張られた「ツリー・オブ・ライフ」。2018年10月27日土曜日、このシナゴーグで、ロバート・バウアーズによって11人が殺害された。それ以来、ここに設けられた祭壇は、コミュニティの人々が非常識なヘイトと暴力に対して声を上げる場となっている。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 ジョンソン氏はこれまで28年間、ナショジオの写真家として仕事をこなす中で、ヘイトによる殺人が起こった街を何カ所も取材してきた。オハイオ大学で書いた学位論文のテーマはヘイトクライム(人種や宗教に対する偏見や憎悪によって引き起こされる犯罪)だった。また自らが教鞭を取るシラキュース大学では、学部生に、不快な場所に足を運べと強く勧めてきた。それでも、今回の事件はこれまでとは別物だった。(参考記事:「写真家:リン・ジョンソン」

 ジョンソン氏は言う。「わたしはここで生まれました。ここはわたしの地元の街です。人は、こういったことは自分の街では決して起こらないと思うものです」

 かつて『ピッツバーグ・プレス』紙のカメラマンとして働いていたころ、ジョンソン氏は今回の事件の現場であるスクイレルヒル地区に7年間暮らしていた。シナゴーグで殺害されたセシル・ローゼンタールとデビッド・ローゼンタールの兄弟は、彼女と同じ通りの端に住んでいた。

「普段はその場を離れれば、自分は大丈夫だと装うことができます。ここではそれができません。自分の街では、距離を取ることがとても難しいのです。現場で目にしたカメラマンは皆、カメラを目の前に持ち上げることができずに苦しんでいました」

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生まれたときはエラ・ジェーン・シルバーという名だったこの赤ん坊は、2018年10月27日午前9時45分、ピッツバーグのシナイ礼拝堂での名付けの儀式において、イスラエルの子を意味するイスラエラという名前になった。イスラエラが祝福を受けている最中、1.5キロほど離れたシナゴーグ「ツリー・オブ・ライフ」では、ヘイト暴力によって11人が命を落とした。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 ジョンソン氏も最初は写真を撮ることができなかったという。「ある被害者の葬儀が行われていた礼拝堂まで歩いていき、そのまま回れ右をして帰ってきました。電話をかけて、『この仕事はやりません』と言いました」

 このときジョンソン氏の心に浮かんだのは、かつてある新聞の地方版編集者に「死んだ子供の写真を撮らせてもらえるよう、母親に頼んでこい」と言われたときのことだったという。

「指示には従いましたが、二度とやらないと自分に誓いました。あのシナゴーグに行ったときも、同じ感覚を味わいました」

「わたしは地元で仕事をしたことはありません。地元の街では、何も見えてこないのです。カメラマンは普段、目立つものや極端なものを追い求めますが、この街でわたしが探しているのは、日常的なものや、目につきにくいかすかなものです。個人的で親しいつながりがあるスクイレルヒルは、わたしにとって特別な場所です。だからこそこれほど深い喪失感を感じているのです」

 ヘイトクライムをテーマに修士論文を執筆している最中、ジョンソン氏は、ピッツバーグ出身で、テレビ番組のホストとして有名だったフレッド・ロジャーズ氏に話を聞いた。

 インタビューの中でロジャーズ氏は、彼女にこう尋ねたという。「あなたの隣人は、愛するに値しますか?」。「わたしが追求したいのは、このテーマです。わたしはこれを、ヘイトクライムについて考える入り口だととらえています」

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ニュージャージーの自宅への帰途、たまらず祭壇に立ち寄ったと語るエリ・ヴォーゲル氏。雨の中、彼は1時間立ったまま歌い続けた。(PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 ジョンソン氏は今も、何が人々をヘイトクライムに走らせるのか、その理由を探り続けている。今年、彼女はナショジオの仕事で「善」と「悪」の科学に関する写真を撮影した。(参考記事:「科学で迫る「善」と「悪」 鍵となる「共感」の能力 」

「暴力を振るう男性の取材をしたのですが、そこまでの強迫観念に取り憑かれるほどの何が、彼の人生に起こったというのでしょう。米国の国家的論議の中で起こっている何が、彼にこれほどの暴力を振るってもいいのだと感じさせているのでしょうか。これは国全体として、わたしたちが日々、取り組んでいかなければならない問題です」(参考記事:「白人が少数派になる米国で今、何が起きているか」

ナショナル ジオグラフィックのカルチャー記事の編集者、デブラ・アダムズ・シモンズ氏が、写真家リン・ジョンソン氏に、故郷の街で起こった悲劇を取材することについて話を聞いた。(次のページにインタビューを掲載)

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