Photo Stories撮影ストーリー

英ドーセット州にあるミステリーサークル。向こうに夕日が沈む。(PHOTOGRAPH BY ROBERT ORMEROD, NATIONAL GEOGRAPHIC)
きっかけは1枚の写真だった。
2007年4月、雑誌編集者だったモニク・クリンケンベルフ氏は、それまでの人生を大きく変える画像に遭遇した。トウモロコシ畑の中に、三角やダイヤの形が同心円上に刻み込まれている。その構図は、彼女の心の奥底にある本能的な感情を呼び覚ました。
「これはわたしの運命だと感じました」
そして彼女は、穀物畑に描かれた幾何学模様、いわゆるミステリーサークルのメッカである英国ウィルトシャー州に向かった。訪れてすぐ、彼女は「故郷のような安らぎを感じた」という。
通称は「クロッピー」
ウィルトシャー州には、世界遺産である「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」があるが、これは偶然ではないだろう。一帯にはこの他にもいくつかの「ヘンジ(木や石で作られた先史時代の円形遺跡)」があり、これらは夏至や冬至の儀式と関連があると考えられている。こうした背景を踏まえると、このイングランドの田園地帯が、ミステリーサークルの熱狂的なマニア、通称「クロッピー」(ミステリーサークルは英語では一般にクロップサークルと呼ばれている)が集う中心地となっているのもうなずける。(参考記事:「ストーンヘンジの原点 最果ての巨石文明」)
一夜のうちに突如として現れること、またそのデザインの正確さから、ミステリーサークルがどのように作られるのかについては、さまざまな説がある。UFOによって作られると考える人たちもいれば、説明不能な力を持つ集団によって作られると言う説もある。さらには、サークルはすべて人工のものだと主張する人たちもいる。
起源はさておき、ミステリーサークルの大半は、畑の穀類を平らに倒すことで描かれている。円形のデザインのものは、ヨーロッパでは数百年前から見られたという報告もあるが、ウィルトシャー州でミステリーサークルを目玉にした観光が始まったのは1970年代のことだ。
この地域には今も現役の農場が数多くあるが、観光は農家のプライバシーを侵害したり、収入を減少させたりする原因となりうる。毎年夏、大勢のクロッピーが現地を訪れるが、すべての農家が畑への侵入を許しているわけではないことを、彼らは知らない。「かつてのウィルトシャーは、まるで無法地帯でした。大勢の人々が許可なく畑に入って作物を踏み荒らし、農家の人たちを怒らせていたのです」と、クリンケンベルフ氏は言う。
ツアー客が大挙して現地を訪れていたこの時期に、クリンケンベルフ氏と同じようにミステリーサークルの写真に出会ったのが、ドキュメンタリー映画監督のクリス・カーター氏だ。「自分が見ているものが信じられませんでした」とカーター氏は言う。「サークルのディテールと模様はまさに驚異的でした」
40年以上にわたり、カーター氏は写真やメディアを通じてミステリーサークルを観察し続けてきた。そして今年5月、彼はついに英国を訪れ、ミステリーサークルに初めて足を運んだ。カーター氏もまた、サークルから放たれるエネルギーを感じたと語る。(参考記事:「【動画】3000年前の太陽の祭壇、中国北西部で発掘」)
3人の仲間と一緒にサークルに入ったというカーター氏は、こう述べている。「わたしたちは互いの手に触れたまま、しゃがみ込みました。自分たちの手が白くなって赤い斑点が浮き出るのが見え、指先にチクチクとした感覚がありました。皆で一斉に立ち上がると、手は通常の状態に戻りました。再びしゃがむと、また同じことが起こりました」
こうした感覚を体験したカーター氏はしかし、これについて明確な説明を探そうとはしない。
「ミステリーサークルには常に興味を引かれてきました。なぜならわたしにとってこれは、人生には、自分が見たり、感じたり、聞いたり、匂いを嗅いだり、触ったりできるもの以上の何かがあることを示唆する存在だからです」とカーター氏は言う。「自然の中にも、またあらゆる人生にも、われわれが理解しているものよりも偉大な何かの力がはたらいていることは明らかです。そしてわたしは、そのエネルギーは善良で、愛に溢れ、すべての生命を支えるものだと信じています」