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ギリシャの川岸に立つエミネ・ボルンツィさん。13歳で結婚させられたが、現在は離婚して3人の子どもをひとりで育てながら、卒業資格を得るために公立学校へ通っている。男女平等を強く支持する女性だ。(Photograph by Myrto Papadopoulos)

ギリシャの孤立イスラム教徒「ポマク」、変わる暮らし 写真15点

2018.09.29
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 様々な人や文化が交じり合うこの地域は、長い歴史や国境紛争、人の移動によって生まれた。トラキア地域は、ギリシャ、トルコ、ブルガリアの一部にまたがり、しばしば国境線をめぐる紛争の舞台となってきた過去がある。1923年、各国に住む少数民族を保護するため、ローザンヌ条約によってイスラム教の法廷を維持する権利が認められた。ギリシャには今もイスラム法廷が存在し、欧州連合で唯一イスラム法(シャリーア)の適用を認める国である。家族法に関する争いについては、通常の法廷で扱うという法案が可決されたが、それも最近のことだ。(参考記事:「古代トラキアの黄金細工を発見」

 イスラム法を認めるこうした制度によって、ポマクが住む地方では家父長制社会が発達した。女性の地位が下がり、教育の機会は奪われ、自由が制限され、公民権もないがしろにされてきた。2008年の経済危機で、状況はさらに悪くなった。かつて栄えていたギリシャのたばこ経済が行き詰まり、男性は出稼ぎのため家を空け、女性だけが残された。男手を失ったポマク社会は、根本から変わらざるを得なくなった。(参考記事:「アフガンだけでない、女性権利の後退」

【ギャラリー】ギリシャの孤立イスラム教徒「ポマク」の暮らし 写真15点(写真クリックでギャラリーページへ)
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娘と一緒に、弟の結婚式を待つセムラさん。弟は結婚式のために滞在国ドイツから故郷へ戻ってきた。(Photograph by Myrto Papadopoulos)

 ギリシャの若者の失業率は、2018年5月に43.2%に達した。ヨーロッパ平均の15%を大きく上回る。全国的な経済難の影響は、辺境のポマク社会へも及んだ。働き盛りの男性の70%以上がギリシャを離れ、ドイツやフランス、オランダの造船所へ出稼ぎに行った。後に残された女性は、家族の世話や地域の責任を一手に引き受けなければならなくなり、伝統的な男女の役割は意味をなさなくなった。

 取材を始めるにあたって、パパドポウロス氏は、ポマク社会における男女の役割と経済危機の衝突を写真にとらえることにした。最初に撮影に応じたのは、エミネ・ボルンツィさんという女性だった。

 ボルンツィさんは、13歳の時に自分の意思とは関係なく結婚させられたが、現在は離婚し、3人の子どもをひとりで育てている。3つの仕事を掛け持ちし、学校へも通っている。女性の権利と男女平等の熱心な支持者だ。ポマクの伝統を大切にしながらも、それに伴う束縛から解放されたいと願っている。自らを解放する意味を込めて、思い切って身につけていたベールを脱ぎすてた。「闘って知識を広げること。そうすれば、自立した女性、自立した人間になれるのです」(参考記事:「インドに残る児童婚の風習、背景に根強い貧困、写真8点」

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コティリ村でブランコに座って休む若い女性。(Photograph by Myrto Papadopoulos)

 パパドポウロス氏は、ボルンツィさんの物語だけでなく、ほかの多くの女性、そしてポマクの男性の物語も伝える。男たちは家族から遠く離れ、外国の文化に戸惑い、必死で生きようとしている。パパドポウロス氏は、できるだけ多くの側面をとらえることが重要だと感じている。「コインの表側だけを見ることはしません。心から理解したいと思って人々に会い、過去を知り、民族の歴史を学び、できるだけ多くの異なる意見に耳を傾けるように努めました」

 ポマクの社会の複雑さをとらえるため、人々との絆を深めた。彼らの自宅で写真を撮り、祭りに参加し、葬式や誕生の瞬間に立ち会った。ひとつひとつの出会いを通して、ポマクの民族としての知恵、生命観、自分自身の死との向き合い方が、強く心に響いた。「現実の生活は、大変厳しいです。何ひとつ易しいことはありません。自由のために、必死で闘わなければならないのです」と、パパドポウロス氏は語る。それでも、彼らの社会に心惹かれた。「誰もが皆、とても生き生きとしていました」

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文=Luchia De Stefani/写真=Myrto Papadopoulos/訳=ルーバー荒井ハンナ

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