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巣にいる家族に果実を運んできたオナガサイチョウ。非常に見つけにくい鳥で、雑誌の記事でも別種のサイチョウの写真を使うところだった。結果的にその必要はなくなったが、オナガサイチョウ以外のサイチョウも非常に美しいため、以下で紹介する。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN)

絶滅寸前のオナガサイチョウ、撮影は至難の業 写真13点

2018.11.05
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 ナショナル ジオグラフィック誌のオナガサイチョウの特集記事は、主役のオナガサイチョウの写真がないという危機的状況になるところだった。

 こう言うといささか大げさだが、雑誌記事を組むには写真が足りない事態になりかけたのは本当だ。編集部にオナガサイチョウの企画を持ち込んだ写真家のティム・レイマン氏は、難しい撮影になるだろうとわかっていた。この鳥は極めて希少で、シャイで、人目につきにくいからだ。(参考記事:写真家ティム・レイマンのプロフィールと担当記事

【ギャラリー】サイチョウの写真13点、難航した取材の副産物 (写真クリックでギャラリーページへ)
タイ南部、ハーラー・バーラー野生動物保護区でイチジクを食べる雄のツノサイチョウ(サイチョウ)。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN)

「何年も何年も、東南アジアの熱帯雨林でサイチョウを追ってきました」と、ティムは私に語った。「この企画をやり遂げたかった理由の1つは、20年前にナショジオにサイチョウの記事を載せたとき、たくさんの種を撮った中でオナガサイチョウだけはいい写真が撮れなかったことです」

 この鳥の撮影に挑むことは、以前にもまして重要になっていた。オナガサイチョウには絶滅の危機が迫っている。「カスク」と呼ばれる、くちばしの上の突起部分から作られた彫刻品が、闇市場で高騰しているのだ。ほかのサイチョウの場合、カスクの中は空洞だが、オナガサイチョウのカスクは中まで硬いため、小さな像に加工したり、凝った彫刻を施しやすい。こうした製品の需要が、中国の富裕層の間でにわかに高まっている。(参考記事:「「赤い象牙」もつサイチョウ、密猟で絶滅の危機に」

 オナガサイチョウの保護はまだ手遅れではないことを、私たちは知っている。しかし、人々にこの鳥のことを気にかけてもらうには、見事な姿をとらえて見せたいと考えた。

【ギャラリー】サイチョウの写真13点、難航した取材の副産物 (写真クリックでギャラリーページへ)
イチジクをくわえるパラワンサイチョウ。フィリピンのプエルト・プリンセサ地下河川国立公園にて。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
タイのカオヤイ国立公園で撮影されたオオサイチョウ。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
実を付けたイチジクの木へ向かう途中、熱帯雨林の林冠で、枝に止まって羽づくろいするオオサイチョウ。ハーラー・バーラー野生動物保護区で。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN)

「困難は覚悟していました」とティムは言った。「20年前も撮影は簡単ではなかったですが、現在では狩猟で捕られることも増え、オナガサイチョウはますます希少になりましたから。ところが実際に撮影を始めてみると、困難は予想をはるかに超えていました」

 オナガサイチョウを最も見つけやすいのは繁殖期だと、ティムはわかっていた。大まかに言うと3月から8月だ。この時期、雌は木のうろに閉じこもって卵を産み、最長で150日間にわたってひなを育てる。その間、雄は日に何度も餌を運ばねばならない。使用中の巣を見つけられれば、少なくとも雄は見られるはずだった。

 私たちはタイの調査チームと連携していた。巣の監視と保護のために彼らが雇っていたのが、サイチョウの元ハンターたちだ。どの巣が使用中なのか、どうすればそこへたどり着けるのか、彼らは熟知している。

 使用中の巣を2つ撮影できそうだとわかった。場所は山の頂上。そこまでの道はとても急で、泥だらけの悪路だ。しかも大量の機材がある。15人ほどのポーターがそれぞれ20キロ前後の道具を背負うことで、合計300キロ近い荷物を山上に運ぶことにした。キャンプ道具、発電機、食料、そしてチームのメンバー全員の旅行鞄もある。ティムいわく、これでもナショナル ジオグラフィック水準の撮影に欠かせない物だけに絞り、可能な限り軽くした荷物だという。RED社のデジタルシネマカメラとキヤノンの一眼レフを数台、レンズ一式、頑丈な三脚、それから軽い三脚が1台ずつという装備だ。

 このときほど、自分がライターでよかったと思ったことはない。対象を観察するのに必要なのは、ペン、紙、自分自身の目だけなのだから。

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