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1887年に教材として制作された地理教材「ヤギーの地理学習」。金具を外すと驚きの仕掛けが!(COURTESY DAVID RUMSEY MAP COLLECTION)
19世紀の子どもたちは、このカラフルな星座盤を見て天文学に夢中になったはずだ。鮮やかな図、隠されたパネルやスライド機能、照明効果まで駆使されており、地球がどこにあって星々がどのように並んでいるのかを、わかりやすく説明できるようになっている。
この星図は、米国シカゴで出版社を営んでいたリーバイ・ウォルター・ヤギーが1887年に制作した「ヤギーの地理学習」(Yaggy’s Geographical Study)という学校向け教材の一部だ。ヤギーは元発明家という経歴を持ち、地図に関係するいくつかの特許も持っていた。この教材は布を張った木製の箱に入っており、星図のほかにも世界の気候帯や人々を描いた地図も収録されている。(参考記事:「16世紀の世界地図、総数60枚がデジタル地球儀に」)
宝物のような地図
地図の歴史に詳しい米サザンメーン大学のマシュー・エドニー氏は、「これを開けるときは、宝箱を開けるときのような特別な気持ちになります」と話す。
エドニー氏によると、当時の教室でよく使われていたのは壁掛け式の地図で、ヤギーの地理学習のように複合的な教材は珍しかった。その一例が、裏面に組み込まれた紙製の米国立体地図だ。山脈などのおおまかな地形が描かれている。系統だった測量がなされるようになったのはこの地図ができた数十年後のため、「厳密なものではありませんが、この時代にはとても珍しいものです」とエドニー氏は言う。(参考記事:「朝鮮半島の古地図10選 日本より大きく描かれたものも」)
なかでも特に画期的で、体験的に学べるように工夫されているのが星図だ。小さな金具で留められた5つのパネルがあり、それを開くとさらに詳しい図が出てくる。あるパネルでは、月の満ち欠けが説明されている。別のパネルでは、それぞれの季節における地球と太陽の相対的な位置がスライド機能を使って動かしながら理解できるようになっている。さらに、後ろから光を当てると、図の一部が明るくなるようにできている(ギャラリーを参照)。
この地図帳には説明書も付いていて、小さな子どもに教える際のヒントや、説明のしかたも書いてある。また、地球の地理や地形について説明する前に、まずこの星図を使って宇宙における地球の位置について教えることを推奨している。(参考記事:「CIAが歴史的な「機密地図」の数々を公開」)
現代ではありえない記述も
ヤギーの地理学習は、天文学の基礎を教えるうえで格好の教材だが、問題もある。
たとえば、星図に描かれた星々は地球の北半球から見た配置になっているが、太陽系は太陽を見下ろす視点から描かれている。惑星の軌道も円(実際は楕円)になっており、惑星と惑星の間隔も一定の縮尺ではない。(参考記事:「火星地図200年の歴史、こんなに進化した15点」)
ほかにもある。世界を5つの気候帯に分け、それぞれに特徴的な動植物や文化があるとしているが、それは当時の人種差別的な考え方を反映したものになっている。ヨーロッパや北米などの温暖な気候は高度な文明をもたらす豊かな土地につながるが、アフリカや南米などの熱帯気候は怠惰や身勝手さにつながるため、「原始的」な文化しか生まれないなど、現代の科学的、人類学的な基準からすれば明らかな誤った記述がある。(参考記事:「ナショジオは人種差別的だった、米版編集長が声明」)
エドニー氏によれば、この「ヤギーの地理学習」が何部くらい発行されたのか、どれほど広く使われていたのかはわからないという。しかし、1893年に第二版が発行されていることから、かなりの人気だったことがうかがえる。現在、この教材は、エドニー氏がキュレーターを務めるメーン州ポートランドのオッシャー地図資料館・スミス地図教育センターで展示されている。ここに掲載している画像は、デビッド・ラムゼー地図コレクションが最近スキャンし、オンラインで公開したものだ。(参考記事:「グーグルマップも誤記、現代人を欺く「存在しない島」」)