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小さな村アザールの自宅庭に張った練習用の綱の上で、慎重に足を踏み出すパティマット・アリベゴフさん。(PHOTOGRAPH BY JÉRÉMIE JUNG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

ロシア山岳地帯に残る伝統の綱渡り 写真19点

2018.08.31
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 刺繍入りベストに白いシャツ、タイトなズボンを合わせた細身の若い男性は、長さ6メートルのバランス棒を手に持ち、木製の舞台に設置された高さ3.5メートルの狭い台の上に立っていた。ダゲスタン民謡に合わせて笛と太鼓が鳴り響く中、男は綱の上に足を踏み出した。

 慣れた足取りで進み、正面を見据えたまま揺れる綱の上でフォークダンスを踊り始める。足を前に蹴り出し、膝を曲げ、今度はなんと仰向けになって同じ動きを繰り返す。さらに片足だけで立ってコサックダンスのようなステップを踏み、後ろ向きに歩いて元の台へ戻った。

 次に、花柄の民族衣装を着て頭に白いスカーフを着けた若い女性に棒を渡すと、女性は綱を渡り始めた。反対側からもうひとりの女性が同じように出てきて、互いに向かい合いながら、下を見ることなく踊り始めた。

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2017年、海沿いの古都デルベントで開催されたダゲスタン文化祭りで、完璧な演技を見せるオグニ・サーカス学校の生徒たち。(PHOTOGRAPH BY JÉRÉMIE JUNG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 誰も命綱を着けず、下には網も張られていない。ふたりは踊りながら後退し、台へ戻ると、(目に見えない)観客へ手を振り、梯子を下りた。

私はあまりの離れ技に驚嘆し、同時に落ちはしないかとはらはらしながら見守った。心臓は早鐘を打ち、冷や汗がどっと吹き出た。パフォーマー集団「ダゲスタニ・イーグルス」のトレーナーでマネジャーのアシャバリ・ガサノフ氏を振り返ると、思わず口を突いて出たのはあまりにベタすぎる質問だった。「網も張らずにあんな高い所で、怖くないんですか?」

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 すると、ガサノフ氏はきっぱりと言った。「ダゲスタンの綱渡り師に恐怖心などありませんよ。絶対にね」。髭のガサノフ氏は、音楽を奏でていたラップトップのスイッチを切ると、「とりあえず、そこまで!」と呼び掛けた。パフォーマーたちは、舞台から降りた。

 ここは、ロシア連邦ダゲスタン共和国の首都マハチカラにある、さびれたタタム・ムラドフ国立劇場。すぐそばには、紺碧のカスピ海が広がる。

 ガサノフ氏は、ここでペレワン・サーカス・スタジオを主宰し、生徒たちの指導に当たっている。スタジオには現在、見習いも含めて13人の綱渡り師が所属している。

山の国ダゲスタン

 一説によると、ダゲスタンは綱渡り発祥の地であるという。人里離れた山岳地帯で、移動する手段として発達した(ダゲスタンは、「山の国」という意味)。「ある日、谷の反対側に住む隣人に向かって男が叫んだ。『おい、アーメッド。うちへ遊びに来ないか。ただロープをこっちに放り投げて、歩いて渡って来ればいいさ!』ってね」と、ガサノフ氏は語ってくれた。(参考記事:「崖にぶら下がりハチに刺され、ヒマラヤの蜂蜜採り撮影は命がけ」

 地元の歴史家セルゲイ・マニシェフ氏も同意する。「そもそも、19世紀に戦士が谷を渡るために綱の上を歩いたというのが始まりです」

 ダゲスタンのツォフクラ・ペルヴァヤ村では、1935年に芸人が綱渡りを見世物にして、結婚式や祝日のイベント、地元のお祭りなどで人気を得たことから、伝統的にこの村がダゲスタン綱渡りの発祥地と考えられてきた。しかし実際には、ここよりもさらに人里離れた僻地で生まれた可能性が高い。(参考記事:「世界の民族衣装 カフカス地方の眉毛美人(1913年)」

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伝統的な民族衣装を身に着け、水の入った水差しを頭に乗せて、バランスを取る練習をするパティマット・ムルタザリエワさん(13歳)。(PHOTOGRAPH BY JÉRÉMIE JUNG, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「13年間綱渡りをやっていますが、一度も落ちたことはありませんよ」と語るのは、たった今綱の上で演技を見せてくれたイブラギムさんだ。ガサノフ氏の息子で24歳、割れたあごにダークブラウンの瞳を持つ。

「落ちるかもしれないと怖くないんですか?」

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