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聖ヤコブ祭でリズミカルなダンスを踊る「タスチュアン」たち。先住民の言葉で「リーダー」を意味する。(PHOTOGRAPH BY RAMIRO DURÁN RENTERÍA)

メキシコの聖ヤコブ祭、仮面に隠された文化侵略の物語 写真12点

2018.08.10
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 浅黒い木彫りの仮面に逆立つように縫い付けられた牛の毛。きつく締め上げたブーツの上には、明るい色のケープが舞う。「タスチュアン」と呼ばれる踊り手たちだ。毎年7月の終わりごろ、メキシコでは町の広場に男たちが集い、聖ヤコブ祭が執り行われる。人々は、この日のために1年間かけて準備をしてきた。

 殉教者であり、守護聖人である聖ヤコブの日は世界中で祝われる。だが、3日間もかけて盛り上がるのは、ここメキシコ中央部サカテカス州周辺くらいだろう。祭りの目玉は、新大陸にやってきたスペイン人と先住民カスカン人との戦いを再現した儀式である。

「下地にあるのは、大変心が痛む物語です」と、サカテカス州出身のフォトジャーナリスト、ラミロ・デュラン・レンテリア氏は語る。「戦いに勝利したスペイン人は、自分たちの宗教と言語を持ち込んだのです」。レンテリア氏は、生まれ育った町からわずか40分のところにある先住民集落の聖ヤコブ祭を取材した。(参考記事:「希少な古代アステカの地図、16世紀メキシコを描く」

 スペインの守護聖人である聖ヤコブへの崇拝は、敗れた先住民を同化させるための道具に利用された。先住民カスカン文化の一部をカトリックの祭りに取り入れることで、「聖ヤコブが背後についた『聖なる』スペイン人に『悪』の土着文化が屈した」と教え込んだのだ。

 3日間の儀式の内容は集落によって異なるが、主に芝居風の踊り、にぎやかな出し物、ミサなどが行われる。

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ソンブレロ帽をかぶり、赤いベルベットのケープをまとった聖ヤコブ役の男性が、サカテカス州フチピラの教会を訪れた後、村へ戻るタスチュアンを先導する。(PHOTOGRAPH BY RAMIRO DURÁN RENTERÍA)

 7月24日、町の指導者と教会の指導者がベルを鳴らして祭りの開会を宣言する。踊り手であるタスチュアンたちが雄たけびをあげ、巡礼が聖ヤコブの聖像を運び出すために教会を目指して出発する。像は通りを練り歩き、人々に祝福を授ける。

 カトリック教会の正式な聖ヤコブの日である7月25日には、スペイン軍がカスカン人に勝利した「ミクストンの戦い」の最終戦が再現される。つばの広いソンブレロ帽をかぶった聖ヤコブが馬に乗って、スペインの勝利を意味する剣と木の十字架を手に持つ。スペイン人は、最初は武力で、次に宗教でタスチュアンを征服する。抵抗していたタスチュアンは悔恨し、最後にはキリスト教の信仰を誓う。(参考記事:「シンコ・デ・マヨ:戦いの歴史の意味」

 7月26日は、打って変わって世俗的な祭りになる。長老役の男性ふたりが女性の服を着て通りを跳ね歩き、見物人にキスしたり、互いに喧嘩を始める。すると、子ども役のタスチュアンが「長老」に殴りかかり、女性の服を脱がせる。これは、征服されたカスカン人の屈辱を表現している。

 この部分は、儀式の中でも特に複雑で、踊り手ですらその意味をよくわかっていないと、レンテリア氏は言う。

 儀式そのものも、複雑で危険な二元性を伴う。男性が女性の格好をし、女性は参加せず、衣装作りに専念する。儀式とはいえ服を脱がされるという激しい行為は、女性には適切でないと考えられているためだ。儀式は暴力性が強く、負傷者が出ることもある。(参考記事:「ボリビア、伝統衣装まとう女性たちの肖像10点」

「聖ヤコブには、矛盾がないわけではありません」と、レンテリア氏。「タスチュアンたちの寓話は偽善的ではありますが、それでもその矛盾ゆえに感動を覚える部分も私にはありました」

【ギャラリー】メキシコの聖ヤコブ祭 写真12点(写真クリックでギャラリーページへ)
フチピラの教区教会から引き上げるタスチュアンたち。町によって儀式の内容は異なるが、ひとつだけ共通しているのは「必ず戦いの場面がある」ということだ。(PHOTOGRAPH BY RAMIRO DURÁN RENTERÍA)

 このように難しい意味合いや隠されたメッセージもあるが、タスチュアンの踊りは地域文化の力強い象徴として続いている。(参考記事:「【動画】変な聖人マキシモン、女、酒、たばこ好き」

 イシュマエル・ガルシア・アビラ氏は、故郷のサカテカス州モヤウア・デ・エストラダで33年間タスチュアンの踊り手をやっている。「大切なのは、モヤウアの人々が自分たちは何者であるかを感じることです。私たちは、この踊りが地元だけでなくメキシコの国全体にとっても大変重要であると認識しています」。モヤウア・デ・エストラダの祭りは全国的にも有名で、アビラ氏によれば1000人以上の踊り手が参加し、国内各地や米国からも観光客がやってくるという。

 20世紀に、サカテカス州から多くの人々が米国へ移住した。そして今、その子ども世代が毎年夏になるとサカテカス州へ戻ってくる。サカテカスの親せきを訪ね、家族の踊りを見物し、踊りを真似る。サカテカスの祭りでは、メインイベントに続いて3日間、子どものための祭りが開催される。(参考記事:「中南米系移民ラティーノが米国の未来を握る」

 レンテリア氏にとって、今回の取材は忘れられないものとなった。

「時が経つのを忘れてしまいました。人々は、心からこの儀式が好きなんだと伝わってきました。それによってあらゆる感情や感覚を受けとり、自分も何かの一部になっていると思えるんです。汗をかきながら歩き回っていましたが、穏やかな気持ちになれました」(参考記事:「【動画】メキシコで人気の「ピニャータ」とは」

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文=Rachel Brown/写真=Ramiro Durán Rentería/訳=ルーバー荒井ハンナ

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