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ヌル・アイシャさんは、自宅にいる時にミャンマー軍に放火され、顔と腕に火傷を負った。クトゥパロンに避難し、治療を受けた。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM DANIELS, NATIONAL GEOGRAPHIC)

最悪の瞬間はレイプの後に訪れた、弾圧される民族ロヒンギャ

2017.09.05
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受け入れる意志のない国

 ロヒンギャは2つの国の間に挟まれ、どちらの国からも受け入れられていない。現在、バングラデシュには50万人以上のロヒンギャが住んでいるが、そのうち正式に登録されているのは3万2000人のみで、1992年以降は誰ひとり登録されていない。バングラデシュへの難民流入を止めたいという意図は明らかだ。何十万もの未登録のロヒンギャは、仕事にも就けず、教育や基本的な医療ケアを受ける権利も持たない。

 ただでさえ貧しく、人口過密問題を抱えるバングラデシュは、ロヒンギャの受け入れにはまるで無関心だ。難民キャンプの劣悪な環境に、多くの人道団体が支援を申し出ているが、政府はそれらをことごとく断っている。そればかりか、ベンガル湾の孤島に難民を移送することさえ検討している。ロヒンギャをコックス・バザールの観光地から遠ざけ、ミャンマーへ追い返そうというのだろうが、多くのロヒンギャは、ラカイン州で経験した恐ろしい記憶に苛まれ、戻ることを拒んでいる。

クトゥパロンに住むヌルル・アマインさんは、兵士に腕を何度も撃たれ、ようやく医者を見つけた時には腕を切断するしかなかった。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM DANIELS, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 数年前、ロヒンギャの男たちの多くは、建設作業員の仕事を求めて危険な海を渡り、マレーシアやインドネシアへ入国していた。その中には、ヤスミンさんの夫もいた。市民権もパスポートも持っていないので、不法に移動するしかない。密航業者は未登録の船に難民たちを押し込め、ジャングルに隠された秘密のキャンプをたらいまわしにし、家族が法外な仲介料を払えない者には暴行を加えたり食事を与えずに死に追いやった。

 東南アジアでの人身売買が摘発され、そのルートが閉鎖された後は、ロヒンギャの男たちは難民キャンプで仕事もなくただ座っているしかなくなった。専門家は、絶望と隔絶が過激な思想の温床になりかねないと警告する。人々は、宗教に癒しを求める。難民キャンプでは、若い男性のグループがコーランを片手にドアからドアを訪ねて回り、住人たちにもっと熱心に祈るよう勧めている。だが地元民の話によると、見えない所ではさらに不穏な動きがあるという。新たに結成された武装グループ「アラカン・ロヒンギャ救世軍」が、ミャンマー軍とそれに協力する地元政府に対する暴動を起こそうと計画し、難民のなかから仲間を募っているというのだ。

60歳のモリア・バヌさんは、この写真の2カ月ほど前にクトゥパロンへやってきた。兵士らが隣の家に火をつけたため、娘たちとともに逃げ出してきた。腫瘍除去手術の痛みが残るなか、家族を養うために大通りで物乞いをしている。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM DANIELS, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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自分の居場所を持てる日は来るか

 私が最後にアフィファさんに会った時、彼女は難民キャンプの外れにある丘の上で、細長い区画をほうきで掃いていた。家族が住むことになる新しい小屋をこの場所に建てるという。彼女の父親は、仲間の難民から30ドルを借りて、竹竿や布切れを馬車いっぱいに購入し、既に四隅に太い柱を立てていた。

 だが、不幸は終わらなかった。2017年5月の終わりごろ、サイクロンがバングラデシュ南部を襲い、アフィファさんたちの小屋は倒壊してしまった。キャンプ内のほかの多くの建物も壊滅的な被害を受けたが、幸い死者は出なかった。その後、アフィファさんの母親と残りの兄弟たちが無事バングラデシュに到着し、アフィファさんは胸をなでおろした。

 だが、依然として食料は不足し、モンスーンの雨も続き、ラカイン州からは新たな武力衝突のニュースが入ってくる。このような苦しい状況のなか、アフィファさんとその家族がいつか自分の家と呼べる場所を持てる日が来るのかどうかは、定かではない。(参考記事:「香港にひそむ貧困、1畳間に暮らす人たち 写真22点」

少年の乗る車いすを押す子どもたち。クトゥパロンのこの通り沿いでは、難民が商店やカフェを開いている。ここ最近ミャンマーからバングラデシュへ避難した難民の3分の2近くが子どもだ。彼らは児童労働や児童婚、性的人身売買の犠牲になるリスクが高いといわれている。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM DANIELS, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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ロヒンギャの中には、コックス・バザールそばの難民キャンプから離れて住む人々もいる。この男性は、ベンガル湾の居住地に住む。近くには、浸食防止用の木が植えられ、ビーチへ遊びにやってくる観光客向けのホテルもある。(PHOTOGRAPH BY WILLIAM DANIELS, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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ナショナル ジオグラフィック日本版2017年11月号

2017年11月号では特集「バングラデシュ 故郷を追われたロヒンギャ」を収録しています。

文=Brook Larmer/写真=William Daniels/訳=ルーバー荒井ハンナ

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