Photo Stories撮影ストーリー

2017年7月10日、米国のボストン灯台の背後からのぼる満月。(PHOTOGRAPH BY BABAK TAFRESHI)
ババク・タフレシ氏は、海上にのぼる月を決して見飽きることはない。
7月9日、米国ボストンの15キロほど沖合に、珍しい赤い満月を見る絶好のポイントがあった。ナショナル ジオグラフィックの写真家であるタフレシ氏は、カメラを手にそこへ向かう。
完璧なアングルを求めて選んだのは、ボストン灯台があるリトル・ブリュースター島の近く。輝く米国最古の灯台を前景に、ドラマチックな赤い月が浮かび上がる。
「月はゆがみ、水平線が赤くなります。同じ景色は二度と見ることはできません」とタフレシ氏。「今日は暖かい夏の日だったので、海にかかる霧のおかげで一段と強烈に見えます」
最初、月は赤くゆがんで見える。大気によって拡散、屈折するせいだ。そして数分後、月は金色に変わる。(参考記事:「なぜ赤い? 夕焼けの科学」)
写真や動画があまりに鮮明なため、ソーシャルメディアでタフレシ氏をフォローする人の中には、改変された偽物ではないかと疑う者もいた。しかし、そうではない。(参考記事:「まるで「星の万華鏡」、夜空を行進する天の川を撮影」)
写真家なら知っているだろうが、月のクローズアップ写真を撮影するには、倍率の高い望遠レンズを使うしかない。夜空にゆっくりとのぼる月の姿をとらえるために、タフレシ氏は600ミリのマニュアルレンズを使ってタイムラプス撮影を行った。(参考記事:「16歳の少年が撮ったドラマチックなロケット打ち上げ写真」)
遠近感も重要だ。水平線のそばにある月は、まわりにある木や山と簡単に比較できるので、大きく見える。月はまったく同じ大きさだが、上にのぼるにつれて小さくなるように見える。
この「月の錯視」と呼ばれる現象は、すばらしい写真の題材になるとタフレシ氏は話す。夏至のころ、満月は空の低い場所を通るので、北半球で月を見る人はこの光のマジックを経験しやすい。(参考記事:「火星から見た地球と月の写真をNASAが公開」)
タフレシ氏は、10代のころから20年以上も夜空の撮影を続けている。出かけるたびに、撮影のポイント選びや構図作りが上達する。撮影は決して簡単ではないが、仕事部屋の外で夜空の神秘を目の当たりにするのは大好きだとタフレシ氏は語る。
「写真を通して、現代の生活に夜空をよみがえらせたいのです。光害と都市生活に埋もれた現代人にとって、夜空は忘れられた自然の一部なのですから」(参考記事:「【解説】月周回旅行、スペースXの実現力は?」)