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ベネズエラのソルテ山。衰弱したオセアス・リオスさんに対し、マリア・リオンサをあがめる民間信仰の霊媒師が治療の儀式を行い、バイキングの霊と交信した。(PHOTOGRAPH BY MERIDITH KOHUT, NATIONAL GEOGRAPHIC)
南米ベネズエラで、病の治療をシャーマンに求める人々が増えている。背景にあるのは、この国が抱える貧困や医療の危機だ。特別レポート第2回は、薬も機材も不足するなかで患者を救おうと奮闘する総合病院の実態を報告する。
「第1回 シャーマンに頼る病人はなぜ増えた?」はこちら
南米ベネズエラの奥地、ヤラクイ州のソルテ山。山中の川岸に、この国の民間信仰の女神マリア・リオンサに捧げる主祭壇があり、毎日訪れる信者たちの列が途切れることはない。ある者は信仰心を示すため、膝を地面につけてはいながらやって来る。オセアス・リオスさんのように、自力では歩けずに家族に支えられてたどり着く人もいる。リオスさんは腎不全があり、医薬品不足のあおりで15日前から薬を切らしている。
ロナルド・カルデナスさんは、ブラジルとの国境に近いサンタ・エレーナ・デ・ウアイレンからバスで3日かけてソルテ山にやって来た。患っている胃の病気を地元の医師が治療できず、マリア・リオンサに望みをかけてきたのだ。
希望にすがる巡礼者たち
川沿いの開けた場所で、現地の太鼓「ボンゴ」の力強いリズムと、「頑張れ、頑張れ」という声援の中、霊媒師のリカルド・ペレスさんが太古のバイキングの霊と交信していた。ペレスさんは自分の舌をかみそりの刃で傷つけ、頭上でグラスを割った。そして、カルデナスさんが寄生虫に感染していると明言した。
顔と胸に血を流しながら、霊媒師はカルデナスさんの腹部に指を突き立てた。手を上向きに動かし、圧迫し、次いでカルデナスさんが吐くまで首を絞めた。出てきたのは、長さ6センチほどのミミズに似た2匹の白い虫だった。(参考記事:「シャーマン 精霊に選ばれし者」)
さらに上流では、大学生のカルラ・ゴメスさんが池に仰向けに浮かんでいた。そばには、20世紀初めに医療に尽力したベネズエラ人医師、ホセ・グレゴリオ・エルナンデスにささげられた祭壇がある。エルナンデスは貧しい患者を無料で診療し、しばしば自分のお金で患者たちに薬を買ってやったことで、郷土の英雄となった。1919年に彼が亡くなって以来、マリア・リオンサの信奉者や、敬虔なカトリック信者の間で祈りの対象となり、今ではエルナンデスの名をたたえて祈ると、患者が奇跡的に治癒すると広く信じられている。
ゴメスさんは慢性疲労に苦しんでおり、毎朝ベッドから出るのにも苦痛を覚えている。医薬品不足のために必要な薬が見つからなかったことから、彼女はソルテ山に赴き、エルナンデス医師の霊に治療を頼もうと決めた。
エルナンデスに祈る
カラカス郊外の山地には、コンクリートブロックでできたブタ小屋と隣り合わせの小部屋がある。ある日、ここで霊媒師のヘンリー・ルイスさんが、40代の主婦ベルキス・アマリア・ラミレスさんを治療していた。
ホセ・グレゴリオ・エルナンデスの霊に祈願したルイスさんは白目をむき、ラミレスさんの膣にはさみを挿入した。ベッド代わりに横倒しにした冷蔵庫の上にラミレスさんは横たわっていた。数分後、ルイスさんは悪性腫瘍のように見える物を彼女の子宮から取り出した。
「ずっと気分が良くなりました。あれがもう体の中にないと思うと、ほっとしています」とラミレスさん。「奇跡が起こったんです」
次の患者は慢性の脱力感に悩まされていた。ルイスさんは患者のへそに切り込みを入れ、小ぶりのカップ1杯分の血と茶色っぽい液体を、彼女の胃から口で吸い出した。終わるころには、白いあごひげが血で赤く染まっていた。