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みなしごゾウに優しく触れるレテティ・サンクチュアリの女性飼育員。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)

ゾウの孤児院、変わるケニアの戦士たち 写真19点

2017.06.01
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アフリカ、ケニア北部で、ゾウの保護が新たな変化を迎えている。ナショナル ジオグラフィックの写真家エイミー・ビターリ氏が写真19点とともに報告する。(参考記事:インタビュー:写真家エイミー・ビターリ「美しさを超えたものを伝える写真」

 助けを求める赤ちゃんゾウの鳴き声が、遠くから響いてきた。まるで、人間が泣いているかのようだ。鳴き声に導かれ、長い槍を手にしたサンブルの若き戦士たちは草むらを縫って駆け抜け、幅の広い川床へやってきた。

 ゾウの赤ちゃんは、手掘りの井戸のひとつにはまってしまい、抜け出せなくなっていた。体の半分ほどが砂と水の中に埋まり、小さなお尻とくねくねと動く鼻だけが見えた。

手掘りの井戸にはまっていたところ、サンブル族の戦士たちに発見され、救出された赤ちゃんゾウ。キニヤと名付けられた。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 ほんの1年前なら、男たちは井戸の水が汚れてしまわないようにゾウを引っ張り上げるだけで、そのままゾウが死ぬのを放置していただろう。しかし、今は違う。ケニアの最果てですら当たり前となった携帯電話を取り出して、約10キロ離れた保護施設、レテティ・ゾウ・サンクチュアリへメッセージを送ると、後は助けが来るのを待った。(参考記事:「ケニア・サンブル、ゾウの大家族」

ゾウと人間、近づく生活圏

 レテティ・サンクチュアリがあるナムニャク野生生物保護トラストは、面積4000平方キロ、ケニア北部の低木地帯に広がっている。サンブル族は、この土地に先祖代々住み続けてきた。ナムニャクの支援顧問団体であるノーザン・レンジランド・トラストは、33の地域保護団体と協力して、警備、持続可能な開発、野生生物保護の強化に取り組んでいる。

 ここには、サンブル族の他にトゥルカナ、レンディレ、ボラナ、ソマリ族が住み、かつては土地と資源をめぐって命をかけた争いが絶えなかった。それが今では、地域社会のつながりを深め、同じ土地に生息する推定6000頭のゾウの保護のために協力しあうまでになった。

(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 サンブルの男たちがやってきた川床は、一見する限りでは乾燥して草木も生えていないが、地表のすぐ下には水がある。ゾウは水のにおいを感知できるので、サンブル族はゾウが足で掘った場所を見つけて細長い井戸を掘り、ミネラルを豊富に含む冷たいきれいな水を得る。各家族がひとつずつ所有する井戸は、深さが4~5メートルに達することもある。(参考記事:「【動画】水場にひっくり返ったゾウを救出」

 水をくみ上げる時、サンブル族は飼っている牛の群れを称える歌を歌い、動物たちを水飲み場へ呼び寄せる。乾期(2月、3月、9月、10月)には、井戸をさらに深く掘らなければならない。そこへ、水を求めてやってきたゾウが足を滑らせて穴にはまってしまうことがある。

 間もなく、レテティ・サンクチュアリの救助隊がゾウの運搬用に特注した四輪駆動車に乗って到着した。サンブル族の救助隊員ジョセフ・ロルンゴジネさんとリムランド・レモジョングさんは、以前にも同じようにゾウを救助した経験を持ち、すぐに仕事に取りかかった。井戸の周囲を掘って入り口を広げ、2人の男がその中に入ると、ゾウの腹の下に紐を渡して、どうにかこうにかゾウを引き上げることに成功した。ゾウは、12時間は井戸にはまっていたと思われる。

キニヤを見守るジョセフ・ロルンゴジネさん。以前はサンブル族の戦士だったが、今はゾウの世話をしている。この写真が撮影された直後、キニヤの命を助けるために保護施設へ連れ帰ることにした。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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家族は戻ってこなかった

 ロルンゴジネさんらは、その場で弱った子ゾウに水分補給用の生理食塩水を飲ませ、毛布を掛けて介抱しながら、ゾウの母親と家族が水飲み場にやってくるのをひたすら待った。しかし、発見から36時間経ってもゾウの群れは現れなかったため、子ゾウを毛布に包んだままトラックに乗せて、サンクチュアリへ連れ帰った。

 半円形の尾根に囲まれたレテティの保護施設は、地元のサンブル族によって2016年に創立された。コンサベーション・インターナショナル、サンディエゴ・ズー・グローバル、タスクUKといった団体が資金を拠出し、ケニア野生生物局とノーザン・レンジランド・トラストが、継続して支援を行っている。9月25日、レテティで保護された最初のゾウは、スイヤンと名付けられた。現在は10頭ほどが飼育されている。20人以上いる飼育員は全員サンブル族で、いずれはゾウを野生へ帰そうと世話をしている。

 今回保護されたゾウは、キニヤと名付けられた。

粉ミルクのボトルを受け取るマイク・レアルカさんと、お腹を空かせた子ゾウにミルクを与えるナオミ・レスホンゴロさん(右)。成長した野生のゾウは、人間やその財産に危害を加えることがあるため、サンブル族は昔からゾウを避けたり、追い払っていた。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 レテティのようなゾウの孤児院が必要とされるのには、悲しい理由がある。ここ数十年で、象牙を狙う密猟がサハラ以南のアフリカで急増し、ゾウが大量に殺されているのだ。1970年代、ケニア北部には「タスカー」と呼ばれる最大級の象牙を持ったゾウが数多く生息していた。ここはクロサイの密集地域でもあったが、やはりその角を狙った密猟の対象となり、局所的に絶滅に追いやられてしまった。ゾウも、昔と比べると今はごくわずかな数しか残されていない。(参考記事:「巨大な牙もつ50歳のゾウ、密猟者に殺される」

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