Photo Stories撮影ストーリー

(PHOTOGRAPH BY JEFF KERBY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
あっという間に終わってしまう貴重で信じがたい瞬間に、写真家のジェフ・カービー氏が遭遇した。アフリカのエチオピア高地にすむ草食のサル、ゲラダヒヒの母親から、赤ちゃんが生まれ出てくる瞬間を連続写真に収めることに成功したのだ。母親のお尻から、ちょっと驚いたような赤ちゃんの顔が出ている写真は、大きな話題となっている。
ゲラダヒヒは普通、隠れて出産する。ゲラダヒヒの研究者でも、その出産を研究人生で1~2回目撃できれば幸運な方だ。もちろん、出産の過程が分かる連続写真は極めて珍しい。
どうやって撮影に成功したのか。カービー氏は、「もともと生物学者だったことが役立ちました」と話す。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもある彼は、ゲラダヒヒを何年も観察してきた。
カービー氏と研究者チームがメスのゲラダヒヒのグループに近づいて観察しているとき、妊娠している1匹が産気づいた。この個体が集団から離れて行き(珍しい行動だ)、静かになった(もっと珍しい)ことに気付くと、カービー氏は望遠レンズをつかんで彼女を追った。
それから20分間、ゲラダヒヒは陣痛と筋けいれんに苦しみ、次々と姿勢を変えた。目立たず観察でき、しかもヒヒをはっきりと撮影できる位置を慎重に選んだカービー氏は、4~5メートル離れたところからじっと動かずに目をこらした。赤ちゃんの頭が出るのに時間がかかったのと、カービー氏が見通しの良い地点に巧みに陣取っていたおかげで、思わず二度見してしまうような写真が出来上がった。
今回の写真は、きわめて貴重なものであることはもちろん、個体数減少や生息地の縮小が話題になりがちな野生生物保護の活動においても大きな力になる。ある種の命が終わる時ではなく、始まる瞬間を見届けられたのだから。
ナショナル ジオグラフィック日本版2017年4月号
特集「エチオピアの草原に生きるゲラダヒヒ」を収録。その他、テクノロジーで加速する人類の進化や、ミニチュア廃墟の記事を掲載しています。