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トルコ南東部スール地区の一家。2カ月の避難から戻ると、自宅は略奪に遭っていた。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
トルコの歴史地区には、近年の武力衝突を背景とした複雑な住民感情がある。アルメニア人写真家のアヌシュ・ババジャニヤン氏が取材した。
トルコ南東部の都市、ディヤルバクルの中心部に、城壁で囲まれた歴史あるスール地区がある。モスク、教会、石造りの家々が細い通り沿いに立ち並ぶ様子は、数世紀にわたってここに暮らしてきた人の多様さを物語る。アラブ人、ユダヤ人、ペルシャ人、アルメニア人、トルコ人、そしてクルド人だ。
スール地区には、暴力の痕跡が生々しく残る。2015年8月から2016年3月にかけて、この地区の支配権を握ろうとするクルド人武装組織と、それを追い払おうとするトルコ政府の治安部隊が衝突。民家や商店が廃墟と化した。人命が失われ、終日の外出禁止令が出された。多くの人がこの地区を出ることを余儀なくされ、同じディヤルバクルの街にいながら難民の状態になった。
その後、住民たちはスール地区に戻れるようになったが、地区のうち戦闘が最も激しかった場所は、2016年12月時点でもトルコ警察によって閉鎖されたままだ。近づくこともできず、依然として外出禁止令が敷かれ、人はいない。
トルコ政府は、家を失ったままの人に移住用の少額援助を支給しており、損害を受けた歴史地区を再建すると表明している。だが、地区の修復は観光には恩恵になるとしても、街に裕福な人々が流れ込めば、結果としてここに息づいてきた地域社会は終わってしまうことになる。
アルメニア人写真家のアヌシュ・ババジャニヤン氏は、2016年10月にディヤルバクルを訪ね、衝突の爪痕を記録した。通訳とともに家々のドアをノックしては自己紹介した。美しい中庭でグラスに入ったチャイを飲み、ババジャニヤン氏は住民の話に耳を傾けた。希望の中に、再び騒乱が起こる恐怖が入り交じった心境を彼らは打ち明けた。
アルメニア人の手による建物が並ぶ通りを歩きながら、彼女は自身のルーツをより深く認識することができた。加えて、この地で数世紀かけて少しずつ育ってきた文化にも出合った。長い時間を過ごした場所の1つが、「デングベジの家」だ。ここでは、物語を歌で伝えるクルドの古い伝統、デングベジの練習が行われている。
ある1曲に、彼女は特に心を動かされた。かごを売るクルド人の若者と、裕福なアルメニア人の家庭に生まれた若い娘の悲恋を伝える歌だ。2人は駆け落ちしたが捕まり、娘の父親に命じられた男たちによって殺されてしまう。
ここアナトリア地域で、人々は長年隣り合って暮らしてきた。愛と喪失を歌ったこの曲は、複雑に絡み合った彼らの強烈な思いを象徴しているとババジャニヤン氏は思った。円満に暮らしたいと願いながら、絶えず争いに発展してしまうという、痛ましい矛盾だ。
「この歴史ある地に存在する本当の美と、同時にある痛みを知らせたいのです」と彼女は言う。「青い壁の素敵な家に女性たちがどんなふうに集まっているか。歌手がどんなふうに自分たちを表現するのか。子どもたちのかわいらしさと素朴さがどんなふうか。ここは他の街と変わりません。この街に平和が訪れるよう願っています」
訪問を終えてすぐ、トルコ国内で市長を含むクルド人反政府勢力の指導者たちが逮捕され、ディヤルバクル市は治安が悪化したとババジャニヤン氏は話す。次に何が起こるのかは、クルド人とトルコ政府次第だ。スールの住民は、ただ事態を見守りながら待つ以外にはない。
Anush Babajanyan is one of the founders of 4plus, a nonprofit aimed at empowering women through photography. You can see more of her work on her website.
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