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トルコ南東部スール地区の一家。2カ月の避難から戻ると、自宅は略奪に遭っていた。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)

トルコの片隅にある争い・喪失・希望の物語、写真12点

2017.01.24
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トルコの歴史地区には、近年の武力衝突を背景とした複雑な住民感情がある。アルメニア人写真家のアヌシュ・ババジャニヤン氏が取材した。

 トルコ南東部の都市、ディヤルバクルの中心部に、城壁で囲まれた歴史あるスール地区がある。モスク、教会、石造りの家々が細い通り沿いに立ち並ぶ様子は、数世紀にわたってここに暮らしてきた人の多様さを物語る。アラブ人、ユダヤ人、ペルシャ人、アルメニア人、トルコ人、そしてクルド人だ。

 スール地区には、暴力の痕跡が生々しく残る。2015年8月から2016年3月にかけて、この地区の支配権を握ろうとするクルド人武装組織と、それを追い払おうとするトルコ政府の治安部隊が衝突。民家や商店が廃墟と化した。人命が失われ、終日の外出禁止令が出された。多くの人がこの地区を出ることを余儀なくされ、同じディヤルバクルの街にいながら難民の状態になった。

スール地区のビルや住宅は、多くが老朽化や最近の武力紛争で壊れている。この地区を観光の目玉とする計画があり、実現すれば歴史ある建物以外は壊されて新しい住宅になる。ババジャニヤン氏によれば、住民たちには家の補償として少額が支給されているという。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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家族の集いが準備される間、路地で遊ぶ6歳のイルクヌルと2歳のベルチェム。こうした路地がスール地区には数多くある。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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外出禁止令が出されていた間、スール地区では市場も商店も営業を停止していた。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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 その後、住民たちはスール地区に戻れるようになったが、地区のうち戦闘が最も激しかった場所は、2016年12月時点でもトルコ警察によって閉鎖されたままだ。近づくこともできず、依然として外出禁止令が敷かれ、人はいない。

 トルコ政府は、家を失ったままの人に移住用の少額援助を支給しており、損害を受けた歴史地区を再建すると表明している。だが、地区の修復は観光には恩恵になるとしても、街に裕福な人々が流れ込めば、結果としてここに息づいてきた地域社会は終わってしまうことになる。

奥に見えるミナレット(尖塔)は16世紀の建造と推定されている。スール地区の一角にあるが、現在はトルコ警察以外近づけない。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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イブラヒムという名のアッシリア人金細工師。自分の宝飾店で売っている自家製ワインは、ディヤルバクルで指折りと評判だ。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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トルコではカバクと呼ばれるポプラ材を扱って54年になるスフィ・テメス(77)。これらの木が伐採されたヘブセル庭園は、城壁に囲まれたディヤルバクル市スール地区の周囲に広がり、ユネスコの保護対象となっている。木は冬の暖房用のほか、建材にも使われる。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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 アルメニア人写真家のアヌシュ・ババジャニヤン氏は、2016年10月にディヤルバクルを訪ね、衝突の爪痕を記録した。通訳とともに家々のドアをノックしては自己紹介した。美しい中庭でグラスに入ったチャイを飲み、ババジャニヤン氏は住民の話に耳を傾けた。希望の中に、再び騒乱が起こる恐怖が入り交じった心境を彼らは打ち明けた。

 アルメニア人の手による建物が並ぶ通りを歩きながら、彼女は自身のルーツをより深く認識することができた。加えて、この地で数世紀かけて少しずつ育ってきた文化にも出合った。長い時間を過ごした場所の1つが、「デングベジの家」だ。ここでは、物語を歌で伝えるクルドの古い伝統、デングベジの練習が行われている。

 ある1曲に、彼女は特に心を動かされた。かごを売るクルド人の若者と、裕福なアルメニア人の家庭に生まれた若い娘の悲恋を伝える歌だ。2人は駆け落ちしたが捕まり、娘の父親に命じられた男たちによって殺されてしまう。

 ここアナトリア地域で、人々は長年隣り合って暮らしてきた。愛と喪失を歌ったこの曲は、複雑に絡み合った彼らの強烈な思いを象徴しているとババジャニヤン氏は思った。円満に暮らしたいと願いながら、絶えず争いに発展してしまうという、痛ましい矛盾だ。

スール地区で一人暮らしをしているライフェ・ウスル(75)。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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ベールがかけられた家の玄関。この家はもともとアルメニア人の物だったらしいが、今はクルド人の一家が住んでいる。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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スール中心部で、クルド人の家族と友人が婚約を祝っている。ババジャニヤン氏によると、100年ほど前はこの家にアルメニア人一家が住んでいた。この家から数メートル離れた所にトルコ警察が検問所を設けており、その先への一般市民の立ち入りは今も規制されている。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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スール地区の商店は営業を再開しつつある。ババジャニヤン氏は、取材で出会った人々が希望を抱いているのを感じた。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABJANYAN)
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「この歴史ある地に存在する本当の美と、同時にある痛みを知らせたいのです」と彼女は言う。「青い壁の素敵な家に女性たちがどんなふうに集まっているか。歌手がどんなふうに自分たちを表現するのか。子どもたちのかわいらしさと素朴さがどんなふうか。ここは他の街と変わりません。この街に平和が訪れるよう願っています」

 訪問を終えてすぐ、トルコ国内で市長を含むクルド人反政府勢力の指導者たちが逮捕され、ディヤルバクル市は治安が悪化したとババジャニヤン氏は話す。次に何が起こるのかは、クルド人とトルコ政府次第だ。スールの住民は、ただ事態を見守りながら待つ以外にはない。

スール中心部にある商店街に面した店頭。(PHOTOGRAPH BY ANUSH BABAJANYAN)
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Anush Babajanyan is one of the founders of 4plus, a nonprofit aimed at empowering women through photography. You can see more of her work on her website.

参考記事:
「幼くして花嫁に、東欧ジョージアに残る児童婚の現実20点」
「「美しさを超えたもの」を伝える、人々を結ぶ写真10点」
「独立から25年、岐路に立つタジキスタンをとらえた16点」

文=Alexa Keefe、写真=Anush Babajanyan/訳=高野夏美

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