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青い棚の中で仰向けになって眠るネコ。ギリシャ、キクラデス諸島で撮影。(PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

世界の街ネコを旅する 写真15点

2019.01.02
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 チュール・モランディ氏とブルーノ・モランディ氏は、世界中を旅して人や都市、風景を18年にわたって撮影してきた。その際、ふとしたことからついでに別の被写体も撮り始めた。街ネコたちの毛むくじゃらで親しみのある顔だ。

 モロッコ、シャフシャウエンでは明るい青色の建物の上でくつろぎ、ギリシャでは遺跡を跳び回り、日本では興味津々で漁師を見つめ、捨てられた魚を盗むチャンスをうかがっている。新たに出版されたモランディ夫妻の写真集『La Grand Odysée des Chats(ネコたちの壮大な放浪記)』では、そんなネコたちの姿がとらえられている。(参考記事:「ネコの尻尾は何を伝える?」

【ギャラリー】世界の街ネコ、写真15点(画像クリックでギャラリーページへ)
古代ローマの港町エフェソスには、数え切れないほどのネコが暮らす。三毛ネコが2000年前の遺跡からジャンプする瞬間をとらえた。(PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

 モランディ夫妻自身もネコ好きだ。この写真集も、夫妻の愛猫ムジュラに捧げられている。ムジュラは10歳で、「美しくて優しい」とチュール氏は言う。

 モランディ夫妻は、仕事の旅先で出会ったネコたちのカリスマ性に魅了され、写真を撮らずにはいられなかった。写真が十分にたまると、担当編集者に写真集を出せないかと相談した。出版が決まり、半野生のネコたちを新たな視点で撮り始めた。

「ネコの撮影と人の撮影は、私たちにとっては、ほとんど同じことです」とチュール氏は話す。「私たちは、街なかの日常生活の一瞬を写真に切り取るのが好きなのです」。夫妻はまず、ごく自然にふるまう人や動物のありのままの姿をとらえるようにしている。その後、人とは話をし、もしネコが許せばかわいがり、また撮影させてもらう。(参考記事:「瀬戸内海の「うさぎ島」、何が問題?」

 住む都市が違っても、ネコの習慣は基本的に同じだとモランディ夫妻は気づいた。しかし、人と同じで、中には恥ずかしがり屋のネコもいる。「野生化した」ネコは、人を怖がったり、嫌がったりするのですぐにそれとわかる。一方、「街ネコ」「野良ネコ」「地域ネコ」は、人なつっこいことが多い。「時には本当に恥ずかしがり屋のネコもいますが、日本で出会ったネコのほとんどは、まったく恥ずかしがり屋ではありませんでした」とチュール氏は話す。「ネコは、人が優しいことを知っているのです。おそらく、えさをくれる人たちとの付き合いで学んだのでしょう」(参考記事:「ネコは自ら家畜化した、遺伝子ほぼ不変、最新研究」

【ギャラリー】遺跡で遊び、寺でくつろぐ 世界の街ネコ、写真16点(画像クリックでギャラリーページへ)
1匹の茶色のトラネコが、もう1匹を物珍しそうにじっと見つめる。日本の「ネコ島」の1つで撮影。(PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)
狛犬ならぬ「狛猫」。東京にはネコをまつる寺や神社がいくつかあり、参拝者は石像のネコと本物のネコの両方を見られる。(PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

 日本人は特にネコに優しく、ネコと漁師が「特別な関係」を築いているほどだとチュール氏は言う。ネコは幸運を運んでくると考えられ、ネコをまつる寺や神社もある。また日本には、ネコが観光の目玉のようになっている場所もあり、いわゆる「ネコ島」も10カ所ほどある。(参考記事:「北の漁港に生きるたくましい猫たち」

 街ネコについての人々の認識に大きな影響を与えているのは、文化や宗教、歴史、伝説だ。イスラム教では、預言者ムハンマドが、愛猫ムエザを膝に乗せて説教をしたと言われている。また、ムエザがローブの袖の上で眠っていた時、預言者ムハンマドはムエザを起こすのではなく、片袖を切ってしまったと伝えられる。「モロッコやトルコのように、大半のイスラム諸国でネコを特別扱いするのは、預言者ムハンマドがネコをとても愛していたからです」とチュール氏は説明する。

 しかし、誰もが野良ネコを好きなわけではない。ほとんどの場所で、野生化したネコは侵略的な捕食者とみなされ、地域の野生動物に大きな被害が出る可能性があると自然保護活動家は懸念している。実際、ネコは家の外で多くの野生動物を殺していると広く考えられており、2013年に学術誌「Nature Communications」で発表された論文では、メタ分析により、ネコが殺した野生動物を定量化しようとした。この論文によると、自由に歩き回っているイエネコに殺される鳥は、米国だけで年間13億〜40億羽、哺乳類は63億〜233億匹にも及ぶという。(参考記事:「ネコは野生動物の深刻な脅威」

【動画】エルサレムの野良ネコとその陰の守護者:エルサレムの旧市街で野良ネコを献身的に保護する人たち。(解説は英語です)

 しかし、この論文には議論の余地があり、研究結果は「疑わしい」と批判する声もある。その理由は、米国の野良ネコの数の公式記録がないこと、またネコの行動研究が行われているのは、ネコの生息密度が異常に高い場所が多いことだ。このため、被害を正確に見積もるのは、不可能に近いという。これに対し、問題の論文著者は別の論文で、この疑念をネコ擁護派による「科学否定論」だと切り捨てた。(参考記事:「外へ出たネコはどこへ行くのか?」

 野良ネコの数を管理するため、一部の団体は、ネコを捕獲して去勢・不妊手術をし、元いた場所に戻す「TNRプログラム」に取り組んでいる。ボランティアが、ペットとして家で飼えない野良ネコに不妊・去勢手術を受けさせ、これ以上繁殖することなく、街で平穏に寿命をまっとうできるようにするのだ。理論的には、TNRによって、野良ネコは、ゆっくりと平和的にいなくなるか、少なくとも一定数に保たれるはずだ。ところが、ネコの繁殖はとても速く、TNRが効果を上げるためには、毎年、地域にいるネコの75%以上に不妊手術をしなければならないことが、複数の研究から明らかになっている。(参考記事:「ようこそ「ネコの船」へ 50匹の共同生活を取材した 写真14点」

【ギャラリー】世界の街ネコ、写真15点(画像クリックでギャラリーページへ)
モランディ夫妻によると、日本のネコはとても人なつっこい。おそらく、人がネコに優しいことを知っているからだという。(PHOTOGRAPH BY TUUL AND BRUNO MORANDI)

 ネコが環境全体に与える影響については様々な議論があるが、それでもネコは世界中で愛されている。ケニアの沖合に浮かぶラム島では、街ネコは文化史の一部だ。ギリシャでは、法律で保護されている。モランディ夫妻の写真に写っている人たちは、ネコをまったく気に留めていないか、積極的に撫でたり抱いたりしている。

 チュール氏は語る。「ネコは、街の人たちの生活の一部なのです」

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:世界の街ネコ、写真あと10点

文=KRISTIN HUGO/写真=TUUL AND BRUNO MORANDI/訳=牧野建志

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