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技術者のユルゲン・グレーザー氏が気球を使って風のデータを取る。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

世界最北の研究基地ニーオルスンへようこそ、写真20点

2018.11.11
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 地図上で、そこよりも北には北極点しか描かれていないような場所を想像してほしい。寒いけれども美しい、氷河と山とフィヨルドが広がる風景の中で、ホッキョクグマやホッキョクギツネ、セイウチやクジラが生活している。そして、そこには科学者たちも暮らしている。

 ここはノルウェーのスバールバル諸島にある小さな集落、ニーオルスン。人間が暮らす地球最北の地だ。北極圏にある他の拠点と違い、ニーオルスンは商業漁業や船舶運航のハブではない。ここは、学問的探究を支える場所だ。(参考記事:「田邊優貴子「北緯79度なう! 前編」」

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ドイツの生物学者たちが、基地近くのキングスフィヨルドにて水中計測を行う。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

 ニーオルスンは1990年代から、北極圏での調査をしようと世界中から訪れる研究者たちのため、研究拠点およびコミュニティとしての役割を果たしてきた。スピッツベルゲン島にあるこの基地は、ハウスとも呼ばれる複数の研究ステーションからなる。

 ハウスは国ごとに分かれているが、ドイツとフランスが共同利用する「AWIPEV」だけは別だ。この呼び名は、両国の研究所、つまりドイツのアルフレッドウェゲナー極地海洋研究所(AWI)と、フランス極地研究所(IPEV)の略称をつなげたものだ。

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飛行機から見たニーオルスンの研究基地。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

 イタリアの写真家パオロ・ヴェルゾーネ氏は数年前、フランスの「ル・モンド」紙の仕事でこの一風変わった土地を訪れた。この場所の歴史と和気あいあいとした雰囲気に惹かれ、以後2回再訪して、この地での様々な生活風景を撮影した。

 ヴェルゾーネ氏によれば、ニーオルスンが魅力的な理由の1つは過去の歴史にある。村はかつて、ロアール・アムンセンやウンベルト・ノビレといった伝説的な探検家たちが北極探検に臨む際のスタート地点だった。20世紀前半には石炭の採掘地となったが、1963年、2つの大きな事故が起こり炭鉱は閉鎖された。その後、炭鉱を所有していたキングスベイASという会社が、現在のような研究拠点に作り変えることを支援した。(参考記事:「100年間、無視されてきた黒人探検家の偉業」

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ポンプの交換やケーブルの再接続といった水中メンテナンスを行うドイツのダイバー。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)
キングスベイ臨海実験所の中では、海水のサンプルを使って気候変動が微細藻類に与える影響を調査中。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

 今日、それぞれの研究センターは、各国の極地研究所に所属する研究者が利用するラボおよび居住スペースとしての役割を担っている。研究者たちの専門分野は、物理学、雪氷学、海洋生物学、化学など様々だ。(参考記事:「氷の下の海に潜って生物探査、グリーンランド」

 研究チームの調査は1年のうちの特定の期間に行われることが多いため、ニーオルスンに滞在する研究者は日々入れ替わる。めまぐるしく変わる滞在状況を管理するため、各センターにはリーダーが1人おり、日常的な物資の管理や基地のメンテナンス、そして滞在者の安全管理などを統括している。基地に常駐しているのは30人だけで、その多くがサポートスタッフだ。ピーク時でも滞在者は200人に満たない。

 基地の生活で最も重要なことの1つは、持続可能性だ。もう1つは、電波発信の禁止である。データ収集に影響を及ぼしかねないからだ。つまり、携帯電話を使うことは許されず、インターネットに接続するには有線を使うしかない。ほかにもニーオルスンにはルールがあり、子どもは基本的に来ることができない。

 食料は年に何度かコンテナ船が運んでくる。食堂は1つで、全員が同じ場所で食事をする。物資の運搬方法はスノーモービルと犬ぞりが中心だ。さらに滞在者は必ず、半日かけてホッキョクグマに関する安全講習を受けなければならない。ホッキョクグマは好奇心が旺盛で、ハウスのそばまでやってくることがある。(参考記事:「ギャラリー:雪にたわむれる動物たち 写真15点」

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基地にて、5月17日のノルウェーの独立記念日のお祝いを抜け出し、一息つく女性。 (PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

「何もない、電波も通じない場所に、20軒のハウスが建っているところを想像してください」と、ヴェルゾーネ氏は携帯電話から解放されたことを喜ぶ。

 僻地のニーオルスンにも楽しみはある。土曜日ともなれば、研究者たちが基地のバーに集まってのんびりと喉の渇きを癒す。調査で疲れた1日の終わりには食前酒やトランプをたしなみ、その日の出来事をシェアする。

 とはいえ、調査結果までシェアするのだろうか? もちろんだ、とヴェルゾーネ氏は話す。ニーオルスンの国境を越えた仲間意識には、特筆すべきものがあるという。「世界中がこの場所のようになれば、素晴らしいと思います」(参考記事:「北極で繰り広げられる壮絶な軍事演習、新たな冷戦の舞台裏 写真16点」

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フランスの雪氷学者、ジャン・シャルル・ガレ氏が、雪塊のサンプル収集をすべく機材を運ぶ。(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:世界最北の研究基地へようこそ、写真あと13点

文=Catherine Zuckerman/写真=Paolo Verzone/訳=桜木敬子

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