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米アラスカ州バロー岬近くでの訓練中、レーダー基地周辺のツンドラを哨戒する米海兵隊員と陸軍特殊部隊員。兵士たちは、米軍が毎年行う「アークティック・エッジ」(北極圏のへり)と呼ばれる軍事作戦に参加していた。

北極で繰り広げられる壮絶な軍事演習、新たな冷戦の舞台裏 写真16点

2018.10.30
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 2007年8月の穏やかな明るい朝のことだった。ロシアの潜水艇2艇が深さ約4300メートルの北極海海底に到達し、北極点にチタン製の国旗を立てた。劇的な効果を狙った大胆な行動であり、海底に立つロシア三色旗の画像が世界中に放送されると、たちまち西側の非難を呼んだ。

「今は15世紀ではありません」と、カナダのピーター・マッケイ外相(当時)は民放テレビ局CTVの番組で語った。「世界を回って旗を立てただけで、『ここは我々の領土だ』とは言えないのです」

 厳密には、マッケイ氏は正しかった。ロシアの派手な行動に法的効力はなかったからだ。一方、氏の非難にはいら立ちも交じっていた。まるで、ロシアのこの行動をカナダが先に思いつけばよかったと思っているかのようだった。2007年は当時の観測史上屈指の高温を記録し、北極圏の夏の氷原(夏の間もずっと北極点を覆う広大な浮氷)は、観測開始以来最小のレベルにまで縮んでいた。何世紀にもわたって人間の野心を挫折させてきた極地の氷海はどんどん縮小しているように見え、解けゆく雪の氷にあるのが何であれ、自分たちがその権利をもっているという象徴的な主張をロシアがうち立てたのだ。(参考記事:「氷が絶滅する? 北極に迫る危機」

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顔に霜がついたカナダ空軍機の搭乗員たち。野外のサバイバルコースで氷点下60℃という低温に1週間耐え、温かい食事とシャワーが待つ場所に戻る。

「2007年の夏に失われた北極圏の氷は、人類史上最大のものでした。温暖化が最も進む気候モデルでさえも予測できないほどだったのです」。米南カリフォルニア大学の国際関係学助教、ジョナサン・マーコウィッツ氏は言う。「この事実にショックを受け、氷が急速に消えていることを誰もが突如として理解し、行動を起こそうと決めた国がいくつかありました」(参考記事:「北極海の氷が消える、残された時間は」

 北極の氷の融解が「衝撃的な出来事」として話題となって10年が過ぎ、現在の北極地方の状況はさらに変化している。要因は、止まらない気温の上昇、進む氷の融解、そして国際的な注目だ。北極圏に領土や領海を持つ国々のほか、この範囲に国境線のない国々までが、地球上で最新のフロンティアを利用しようと先を争っている。企業家、投機者、政治家たちがみな北に目を向けている。氷が減れば、この地域に豊富にある水産物、ガス、石油、その他の鉱物資源を入手しやすくなると考えているのだ。(参考記事:「北極海の海氷面積、観測史上2番目の小ささに」

「北極海に関する予測は誤っていました」と話すのは、米シンクタンク、ウィルソン・センターの極地研究事業「ポーラー・イニシアティブ」のディレクター、マイケル・スフレガ氏だ。「そして今、私たちの目の前で、現在進行形で海が開けています。過去に例のないことです」

北極をめぐる各国の動き

 だが、北極への投資にはばらつきがあり、一部の国が他に大きく先んじている。ロシアとノルウェーは最も積極的な北極圏国であり、マーコウィッツ氏によれば、天然ガスと石油インフラに多額の支出を行っている。氷海を航行できるロシアの艦隊は世界最大で、砕氷船・耐氷船の数は61隻に上り、しかも10隻を新たに建造中だ。ノルウェーの耐氷船艦隊は5隻から11隻に増えた。韓国の造船所は耐氷貨物船の建造に忙しく、中国はロシアの液化天然ガスネットワークに多額の資金を投じている。(参考記事:「北極 資源開発の行方」

 しかも、中国は単なる受け身の投資家にとどまらず、北極地方での大きな動きがたびたび大きく報じられている。2016年、中国の採掘企業はグリーンランドにある閉鎖された海軍基地を購入しようとした。2017年、中国の砕氷船が科学調査のため初めて北西航路を航行した。そして2018年、中国政府は北極計画の概要を示す白書を発行。そこには、北極地方で果たす役割を広げる意向も記されていた。(参考記事:「激しくなる海底資源の争奪戦」

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NATOの陸軍・空軍兵士たちが、吹きだまり雪に仮のシェルターを作る方法を学ぶ。カナダ・ヌナブト準州、レゾリュート湾近くにあるカナダ軍のクリスタルシティー訓練施設で。
寒冷地サバイバル訓練で、緊急照明弾の使い方を教わる空軍兵士たち。米アラスカ州ブラックラピッズにある米軍の北部戦闘訓練センターで。

 北極圏国にはほかに米国、カナダ、デンマークなどがあるが、北極への関心ははるかに低い。スフレガ氏らは米国を「北極圏の消極的な強国」と呼ぶ。またマーコウィッツ氏は、カナダは北極地方での競争に力を入れるとしばしば語るが、実際の行動はほとんど伴っていないと指摘する。(参考記事:「北極圏保護区に原油の掘削許可、なぜ必要?」

「国益は、主に収入と利益の関数です」とマーコウィッツ氏は言う。「国が何を生産するかが、何を取りに行くかに影響します。そして米国のように工業製品やサービスを作り出す国は、北極地方の資源確保への関心はずっと低くなります。一方、ロシアはあまり工業製品やサービスを提供していません。ロシアにシリコンバレーやニューヨークはなく、ロシアは北極地方を将来の戦略的な資源基盤として見ているのです」

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