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【ギャラリー】バルト海の離島で奇跡的に生き残った伝統文化、写真21点

女性たちによって守られてきたキフヌ島独自の文化は、エストニア内外から多くの観光客を集めている。(PHOTOGRAPH BY FABIAN WEISS)

バルト海の離島で奇跡的に生き残った伝統文化、写真21点

2018.10.27
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 ヨーロッパ、バルト三国のなかで一番北に位置する国、エストニア。その沿岸の港からフェリーに揺られること1時間、バルト海の波の上に、キフヌ島の針葉樹と牧草地が、少しずつ見えてくる。自転車に乗れば、島の端から端まで30分で移動できる。4つの村に700人ほどが暮らし、ホテルは1軒もない。そんなキフヌ島にはしかし、世界各地の有名観光地と比べて、住民1人あたり12倍もの観光客が訪れる。

 これほど大量の観光客を惹きつけているのは、有名な建造物や遊園地ではない。ヨーロッパ最後の母系社会とも言われるこの島独自の文化だ。(参考記事:「最後の母系社会、威厳たたえるモソ族女性たち 写真15点」

「キフヌの女性たちは、伝統文化を守るという非常に重要な役割を担っています」と、キフヌ文化空間財団代表のマレ・マタス氏は言う。

 キフヌ島の男性たちは、かつてはアザラシや魚をとるために、また近年では国際船舶の乗組員として働くために、一度に数週間から数カ月間、島を離れて暮らす。男性が島を留守にしている間は、女性たちが農地の世話をし、行政を担い、伝統を守ってきた。(参考記事:「女性と子どもだけになった村、南米コロンビア高地、写真10点」

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2015年、新しい港の市場が開かれたお祝いに参加する少女。市場には、パン、ビール、手工芸品などを売るために島中の人々が集まる。手工芸品は地元の人々にとっては高価過ぎるため、買い手は主に外国からの観光客だ。(PHOTOGRAPH BY FABIAN WEISS)

波乱万丈の歴史

 エストニアは何百年にもわたって、バイキングやドイツ人、スウェーデン人、ポーランド人、ロシア人からの侵略を受けてきた。20世紀には、この国の文化が生き残れるかどうかの瀬戸際にさらされた。ソビエト連邦による占領、ナチス・ドイツによる侵略、ソ連による再占領を経て、この国の人口は激減した。そのうえ、残ったエストニア人のもとには、外国の文化や習慣が押し寄せてきた。そうしたなか、離島であるキフヌ島には、今も独特の方言、歌、踊り、織物の技術が生きている。(参考記事:「ギャラリー:国境に分断され「王国」を宣言した先住少数民族 写真19点」

 ソ連崩壊後、キフヌ島の漁業と農業は衰退し、観光業が経済の柱となった。とはいえ、最初のうち、観光客はあまり歓迎される存在ではなかった。彼らは、島に警察が常駐してないのをいいことに好き勝手に振る舞う者たちというのが、もっぱらの評判だった。

「彼らはまるで野に放たれた野生動物のようでした」と、2009年に23歳で島の首長に選ばれたイングヴァール・サーレ氏は言う。

 21世紀に入って、島民たちの意識に変化が現れ始めた。島の文化に興味がある観光客を呼び込もうという計画はすぐに実を結び、民族舞踊を熱心に鑑賞する人々が島を訪れ、工芸品や食料を売ったり、宿や自転車を提供したりすることで島民が収入を得られるようになった。2002年には、島民の40%が何らかの形で観光に依存するようになっていた。そして2008年に島がユネスコの無形文化遺産として登録されると、特に日本人とドイツ人を中心に、さらに多くの観光客が訪れるようになった。

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歯医者で治療を待つ女性。島には現在、医者と看護師が常駐しているが、歯医者や美容師、警察官、司祭はいない。彼らの力を借りるには、本土へ行くか、島に来てくれるのを待つしかない。(PHOTOGRAPH BY FABIAN WEISS)
90歳のこの女性は、世界的に知られる伝統音楽の担い手で、自作の曲は250曲を超える。(PHOTOGRAPH BY FABIAN WEISS)

微妙なバランス

 島に深く根付いた文化を商品化することの危険性を指摘する人々もいるが、サーレ氏は、島の活気を維持するためのひとつの方策だと考えている。

「われわれが島を博物館にしようとしているとか、金儲けのために伝統的なスカートを履いているといった批判は常にあります。しかし、島民はこれをお金のためだけにやっているわけではありません」とサーレ氏は言う。

 キフヌ島の生活コストは決して安くない。生活用品の大半は船で運んでくる必要があり、島は他のエストニアの離村よりも多くの補助金を国から受けている。島民は観光客がいなくなる冬の間も家計を支えていくために、フェリーが運行する夏の間に観光客からできるだけ多くの収入を得ようとする。

次ページ:文化を守るのは、金儲けがしたいからではない

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