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グランドティートン国立公園をめざしてグリーン川を渡るプロングホーンの群れ。(PHOTOGRAPH BY JOE RIIS, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

米国を大移動する動物たち、危険な道のりと保護策 写真11点

2018.08.16
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 米国のイエローストーン国立公園周辺では、アフリカ以外では最大規模の哺乳類の大移動が見られる。毎年、数千頭のアカシカやプロングホーン、ミュールジカが、長く困難な旅をする。(参考記事:「動物大図鑑 プロングホーン」

 大移動の途中、動物たちは人間がつくったフェンスや高速道路、宅地などの危険に直面するが、近年、保護活動家やハンター、政治家たちが力を合わせて、これらの障害を取り除こうとしている。

 例えば、北米で最速の陸上哺乳類であるプロングホーンは、毎年、冬を過ごすワイオミング州グリーン川流域から、夏を過ごすグランドティートン国立公園まで約160キロの距離を移動する。この大移動のルートは「プロングホーンの道」として知られる。だがこの道は国有地と州有地、私有地を横切っていて、有刺鉄線や高速道路といった人工の障害物だらけだ。

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毎年冬になると数百頭のアカシカがスペンス・アンド・モリアリティー野生生物生息地管理区域を通過する。ワイオミング州デュボア付近のこの保護区域は、移動する動物たちに安全な避難所を提供するため、1991年に州が買い上げた。(PHOTOGRAPH BY JOE RIIS)

困難な旅

 ナショナル ジオグラフィックの写真家ジョー・リース氏が、アカシカ、ミュールジカ、プロングホーンの大移動の様子を世界に紹介するために写真を撮りはじめたのは10年前のことだった。

「目的は、移動する動物たちが直面する困難だけでなく、米国の荒野も見てもらうことでした」

 リース氏は、世界の人々に動物たちの旅を見せることで、彼らが途中で遭遇する脅威にも注目してもらおうと考えた。『ナショナル ジオグラフィック』2016年5月号に掲載された、有刺鉄線に足が引っかかったプロングホーンの写真は同氏の代表作の1つだ。(参考記事:「イエローストーン 自然保護の実験場」

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イエローストーン地域の人工的な障害物を取り除く近年の取り組みは、ミュールジカなどの移動を容易にしてきた。(PHOTOGRAPH BY JOE RIIS, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE )
ワイオミング州西部のプロングホーンは、ひたすらヤナギの間を歩く。ヤナギの間を歩くときには遠くまで見わたすことができず、速く走ることもできない。(PHOTOGRAPH BY JOE RIIS)

 リース氏の写真をきっかけに動物の移動路を保護する動きが生まれ、この10年間、有刺鉄線だけでなく他の多くのフェンスが撤去されたり、改良されたりしてきた。(参考記事:「経路の確保、プロングホーン大移動」

 最も顕著な変化が見られるのが、ワイオミング州パインデール西部の191号線沿いの約19キロメートルの区間である。この区間は「トラッパーズ・ポイント」と呼ばれ、プロングホーンの道と交差しているため、以前はプロングホーンが巻き込まれる自動車事故が頻繁に起きていた。

年間100頭が犠牲になる「交差点」

「トラッパーズ・ポイントは、人間にとっても移動するプロングホーンにとっても非常に危険な場所でした」とリース氏は言う。毎年100頭以上ものプロングホーンやミュールジカ、その他の有蹄類が、この場所を渡ろうとして死んでいたという。しかし、2012年に高速道路の上に野生動物のための橋が架けられると、プロングホーンは安全に移動できるようになった。(参考記事:「プロングホーンの移動用に陸橋を建設」

 今では、野生動物が車に衝突することはほとんどなくなったとリース氏は言う。「多くの人が、この成功を誇りに思っています。衝突事故をなくしたのは、1つの非営利組織でも、1人の人間でも、1つの役所でもなく、コミュニティー、郡政委員、さまざまな非営利組織、ワイオミング州鳥獣魚類保護局、ワイオミング州運輸局の協力でした。協力が成功をもたらしたのです」(参考記事:「橋を渡って南へ、プロングホーン大移動」

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トラッパーズ・ポイントに架けられた橋を渡るプロングホーン。2012年に完成したこの橋は、移動する野生動物が191号線を安全に横切れるようにするために建設された。(PHOTOGRAPH BY JOE RIIS, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

「必要なのは実践です」

 2018年2月、ライアン・ジンキ内務長官は、アカシカやミュールジカなどの有蹄類の生息地を改良し、移動路を保護するための長官令にサインした。プレスリリースによると、この長官令は「狩猟獣の十分な個体数を保護」するために、州と地主とのより良い協力関係を育もうとするものであるという。

 理論的には、この長官令により、動物たちの大移動が守られるように思われる。しかしハンターも保護活動家も、トランプ政権がどこまで保護に取り組むつもりなのかわからないし、多くの人には現政権下で拡大してきた油田開発の方が優先度が高いのではないかと懸念している。(参考記事:「トランプ次期大統領が引き起こす気候変動の危機」

 米イェール大学林学・環境学大学院の講師をつとめるジム・ライオンズ氏は、「ジンキ長官は、より多くの移動路を保護すると約束しましたが、その一方で、内務省は原油やガスの開発・採掘のために、こうした移動路の一部をリースしています」と指摘する。「トランプ政権が野生動物の移動路の保護にどこまで本気で取り組むつもりなのか、気がかりです」

 セオドア・ルーズベルト自然保護連合のワイオミング州代表で、ハンターでもあるニック・ドブリック氏は、ハンターたちは言葉だけでは納得しないだろうと見ている。長官令が目指す方針は悪くないが、「私たちが本当に必要としているのは実践です」と彼は言う。

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文=Annie Roth/写真=Joe Riis/訳=三枝小夜子

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