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左はパリのエッフェル塔。右は中国の天都城にあるレプリカ。(PHOTOGRAPH BY FRANCOIS PROST)
中国浙江省、東海岸の町、広廈天都城。フランスのパリから1万キロ近く離れたこの町にそびえ立つのは、高さ約107メートルのエッフェル塔のレプリカだ。
この豪華な町は、伝統的なヨーロッパの魅力を再現しようと設計された。凱旋門やシャンゼリゼ通り、リュクサンブール庭園の噴水などもあるなかで、やはり主役はエッフェル塔だ。レプリカとしては、米国ラスベガスのホテルにあるものに次ぎ、世界で2番目の大きさを誇る。(参考記事:「エジプトだけじゃない! 世界のピラミッド大集合」)
10年以上前にこの町がオープンした当初、天都城には居住者が少なく、ゴーストタウンと呼ばれた。現在も多くは空き家のままだが、人口は数千人に達し、記念写真を撮りにやってくる新婚夫婦をはじめ、国内外から観光客が安定的に訪れている。(参考記事:「中国で流行、豪華すぎる結婚写真16点」)
複製建築
中国には、天都城のほかにも薄気味悪いほど本物に似たコピー都市がいくつもある。
上海のテムズ・タウンには、英国ロンドン風の赤い電話ボックスやパブ、ウィンストン・チャーチルの像などが見られるし、福州市ではシェイクスピアにちなんだストラトフォード・アポン・エイボンが建設中だ。阜陽市には米国の国会議事堂を模した建物があり、広東省にはユネスコ世界遺産に登録されているオーストリアの町ハルシュタットを再現した町もある。(参考記事:「ハルシュタット、オーストリア」)
『Original Copies: Architectural Mimicry in Contemporary China(独創的コピー 現代中国の模倣建築)』という本の著者であるビアンカ・ボスカー氏は、「英国やフランス、ギリシャ、米国、カナダの歴史的・地理的な土台から引き抜かれた町や村がまるごと空輸され、中国の都市の余白部にピンポイントで溶接されたようだ」と述べている。
ボスカー氏は、この現象を「デュプリテクチャー(複製建築)」と呼ぶ。こういった場所は低俗な模倣品にすぎないと批判する声がある一方、中国の建築家たちは、世界の偉大な建造物を再現できることを高度な技能や技術の証だと考えている。(参考記事:「ゾウにティーポット、米国のヘンな「史跡」」)
地名に外国の名前を使うのは禁止
「中国はかつて自らを世界の中心だと考えていたが、現在の中国は、実際にその内部に世界を作ることで、自らを世界の中心に据えようとしている」と、ボスカー氏は言う。(参考記事:「中国にディズニーランド似の廃墟 朽ちゆく夢の世界」)
中国を訪れる観光客は、一回の旅行で万里の長城や秦の始皇帝陵などの本物の文化財を見られるうえ、小さなベルサイユ宮殿やパリまで堪能できる。しかし、中国政府は、こうした西洋の複製が増え続けることに反対している。(参考記事:「4.8億円相当、兵馬俑の親指を盗んだ男を逮捕」)
継続的に行われている中国の地理調査から、40万以上の村で伝統的な中国式の地名が外国風の名前に置き換えられたり、完全に消えたりしていることがわかっている。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、中国は1996年以降、地名に外国の名前を使うことを禁じている。文化遺産を守るための措置だが、ほとんど効果はないようだ。
中国の民政相を務めていた李立国氏は、「(中国政府は)国の道路や橋、建物、集合住宅に、外国風の名前や奇妙な名前など、変則的な名前をつけることは認めない。国家の主権や威厳を損なう名前、社会主義の基本的価値観や古くからの道徳観に反する名前は規制する」と述べた。
つまり、天都城の大理石像や噴水、庭園は、パリのそれらにそっくりかもしれないが、それをパリと呼んではいけないということだ。