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色鮮やかなヤイロチョウの標本。アルフレッド・ラッセル・ウォレスがボルネオ島とスマトラ島で採集した。(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)

美しい写真で「進化の神秘」を目撃する

2016.12.22
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 進化という考えに最初に行き当たった人物は、厳密にはチャールズ・ダーウィンではない。同じような人が続けて数人いたうちの1人だ。

 たとえばダーウィンの祖父は動物たちが時とともに「向上し続けている」のは何か理由があるに違いないと考えた。数十年後にダーウィンがガラパゴス諸島でカメを追い回していたのと同じころには、アルフレッド・ラッセル・ウォレスというもう1人の男がオーストラリアの北にあるマレー諸島で独自の調査を行っていた。ウォレスは自身の発見、つまり「進化」理論を最初に報告したが、ダーウィンの名著「種の起源」の方が幅広い内容だった。売れ行きも後者が上回っていた。

絶滅したギガンテウスオオツノジカ(学名Megaloceros giganteus)の堂々たる姿。巨大な体でヨーロッパに生息していたため、18世紀に「種の絶滅ということがありうるのか」をめぐる科学論争の中心になった。命名者のトーマス・モリニューの立場は「否」。ダーウィンらは疑問に思った。ギガンテウスオオツノジカが今も生き延びているなら、どこにいるというのか?(体高2メートル強、左右の角の幅が3.6メートルに達する生きたシカが、簡単に隠れられるはずがない。)(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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 ダーウィンとウォレスはまさに進化論のような経緯をたどった。最も適応した者が生き残り、劣った者たちは数を減らし、場合によっては死滅するという、自然選択の中心となる概念だ。

 ダーウィンは、より適応していた。だからダーウィンはこれからもずっと進化論の同義語であり続けるだろうが、ウォレスの業績は大半がリョコウバトやフクロオオカミといった絶滅動物と同じ道をたどり、理科の教科書では脚注で触れられるにとどまっている。

枯れ葉のようなカマキリ(Deroplatys属)。カムフラージュによって生き残りに役立つその姿は、無数の自然選択を経て進化してきた歴史を物語る。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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「歩く葉っぱ」とも呼ばれるコノハムシ(Phylliidae科)。巧みな擬態により、枝や落ち葉とほとんど見分けられないほど周囲に溶け込める。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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 こうした現在進行中の進化を、写真を通じて伝えてくれるのが、書籍『Evolution: A Visual Record』(進化:目で見る記録、未邦訳)。この本には写真家ロバート・クラークが撮影した鮮烈な写真が詰まっている。その多くはナショナル ジオグラフィックの取材で撮影したものだが、いずれも普遍的で、核心的なテーマを追求している。今いる種はなぜ存在し、その近縁種が姿を消したのか? ホモ・エレクトスではなくヒトが支配的になった理由についても同様だ。

 クラークは本書の中で、キリンの有名な例を使ってこの原則を説明する。首の長いキリンは、木のてっぺんにある餌をうまく採ることができた。首の短いキリンは、それができずに消えていった。だから、現代人は誰もクリマコケラスを見たことがない。現生キリンの仲間で首が短く、1500万年前の東アフリカに生息していた種だ。

羽毛の代わりに襟巻状の羽根が発達したハト「ジャコビン」。チャールズ・ダーウィンが品種改良に取り組んでいたハトでは、人工(つまり飼育下)の選択で体の変化が表れた。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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極端に大きな嗉嚢(そのう)を持つハト「ポーター」。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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 進化を目の当たりにできるという事実自体が、驚くべきことだ。ダーウィンは、弱い者を自然が取り除いていく過程は数十年ではなく数千年かけて起こるとした。だが、その後の人類は進化を引き起こす技術を高度に発達させ、ウサギやモモの品種改良を行って新たな種を誕生させているほか、絶滅しそうな弱い者たちを人類が助け、自然の状態よりも長く存続できるよう計らったりしている。

 進化の例を自分自身で確かめたいなら、手始めに昆虫に目を向けてみてはどうだろう。今回の書籍に寄稿した科学ライターのジョセフ・ウォレスは、「昆虫は地球上に最も広く分布する、最も豊富な進化の実例だ」と記している。現代の科学者は、現生の昆虫は100万~3000万種に上るだろうと考えている。ウマやサイに比べれば体は小さいかもしれないが、巧みに環境に適応してきたことが、体長、色、餌など昆虫のあらゆる側面からわかる。

派手な姿のアトラスガ(学名Attacus atlas、ヨナグニサンもこの仲間)。東南アジアとマレー諸島全域に分布しているのをウォレスが見つけ、記録した。このガには、襲ってくる敵をたじろがせる特殊な技がある。翅の黄色い上端を振り上げると、青と黒の模様が怒ったコブラの頭部のように見えるのだ。(『Evolution: A Visual Record』より)
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 もっとわかりやすい例が見たいなら、自分の飼いイヌでもいい。ゴールデンレトリバー、バセットハウンドといった現代の犬種の大半は、ほんの数百年の歴史しかない。今日、交配の過程で生まれるあらゆる雑種が新たな血統の始まりであり、それが全く新しい何者かへと進化する可能性を秘めている。たった数年で効果を表す進化というわけだ。

 イヌの場合、適者生存の「適者」は結局「一番かわいい者」という意味であるかもしれない。そうでなければ、なぜチワワが今も生きていて、ブレンバイザーは絶滅したのだろうか。子イヌの分娩にしばしば帝王切開を要するフレンチブルドッグは、人間の助けがなかったらいつまで存続できるのだろうか。

ロバの胎児には、ウマやシマウマも含めたウマ科ならではの特徴が表れている。70万年前の子ウマの足の骨に含まれるゲノムを解析していた研究者らは、400万~450万年前に生きていた共通の祖先から、ウマ、ロバ、シマウマが進化したらしいことを発見した。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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 人間に関してはどうだろうか? 今回の書籍では、私たちが誕生した東アフリカの気候条件で、色の濃い肌や目、髪がどう発達したかが説明されている。色の薄い肌や金髪は、低温で曇りがちの土地に人々が移住したときに生まれた。現在の行動を考えると、今から数千年後の人類は多くの情報を取り込むために目が大きくなり、その処理のために脳が大きくなるかもしれない。ある研究では、未来の女性は小柄で太め、コレステロール値は低くなり、妊娠可能な期間が今より長くなると予想されている。

ボルネオ島を訪ねたアルフレッド・ラッセル・ウォレスは、オランウータン(島の人々は「ミアス」と呼んでいた)が木から木へ移る様子を観察し、こう書き残した。「ミアスが森の中をゆっくりと移動していくのは、不思議かつ最も興味深い眺めだ。枝に沿って慎重に歩く半直立の姿勢は、その長い腕と短い脚の産物なのだ」(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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 とはいえ、それは人間が絶滅しなければの話だ。今起こっている進化を研究する科学者の中には、私たちが今、第6の大量絶滅のただ中にいるのではないかと考える人々がいる。地球上の生物全体が死のアリ地獄にゆっくりと入っていき、今の生物多様性のほんの一部だけが取り残されるという見方だ。多様な生物たちがどのように終わりを迎え、その後に何が生き残るのか。答えを誰も予想できない理由の1つは、進化についての私たちの理解自体が進化の途上にあるからだ。

オランウータンとキリンの骨格標本からは、哺乳類の進化の広がりが感じられる。アルフレッド・ラッセル・ウォレスをボルネオ島に向かわせた種の1つがオランウータンであり、ウォレスはそこで進化論を組み立てた。一方、チャールズ・ダーウィンはキリンについて大量の紙数を割いている。木のてっぺんの葉も食べられる長い首は、自然選択の顕著な実例だと考えたのだ。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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米カンザス州で発掘された太古のウミユリの一種、Uintacrinus socialis。白亜紀に現在のメキシコ東部からカナダ北部までを覆っていた浅く広大な海からは、ウミユリのほか首長竜や巨大なサメ、魚など、絶滅生物の化石の数々が見つかっている。地球もそこにすむ生物も不変ではありえない。(『Evolution: A Visual Record』より。PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
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参考記事:
特集「ダーウィンになれなかった男 ウォレス」
国際ネイチャー写真賞グランプリ、特集「オランウータン 樹上の危うい未来」

文=Daniel Stone、写真=Robert Clark/訳=高野夏美

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