Photo Stories撮影ストーリー

色鮮やかなヤイロチョウの標本。アルフレッド・ラッセル・ウォレスがボルネオ島とスマトラ島で採集した。(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK)
進化という考えに最初に行き当たった人物は、厳密にはチャールズ・ダーウィンではない。同じような人が続けて数人いたうちの1人だ。
たとえばダーウィンの祖父は動物たちが時とともに「向上し続けている」のは何か理由があるに違いないと考えた。数十年後にダーウィンがガラパゴス諸島でカメを追い回していたのと同じころには、アルフレッド・ラッセル・ウォレスというもう1人の男がオーストラリアの北にあるマレー諸島で独自の調査を行っていた。ウォレスは自身の発見、つまり「進化」理論を最初に報告したが、ダーウィンの名著「種の起源」の方が幅広い内容だった。売れ行きも後者が上回っていた。
ダーウィンとウォレスはまさに進化論のような経緯をたどった。最も適応した者が生き残り、劣った者たちは数を減らし、場合によっては死滅するという、自然選択の中心となる概念だ。
ダーウィンは、より適応していた。だからダーウィンはこれからもずっと進化論の同義語であり続けるだろうが、ウォレスの業績は大半がリョコウバトやフクロオオカミといった絶滅動物と同じ道をたどり、理科の教科書では脚注で触れられるにとどまっている。
こうした現在進行中の進化を、写真を通じて伝えてくれるのが、書籍『Evolution: A Visual Record』(進化:目で見る記録、未邦訳)。この本には写真家ロバート・クラークが撮影した鮮烈な写真が詰まっている。その多くはナショナル ジオグラフィックの取材で撮影したものだが、いずれも普遍的で、核心的なテーマを追求している。今いる種はなぜ存在し、その近縁種が姿を消したのか? ホモ・エレクトスではなくヒトが支配的になった理由についても同様だ。
クラークは本書の中で、キリンの有名な例を使ってこの原則を説明する。首の長いキリンは、木のてっぺんにある餌をうまく採ることができた。首の短いキリンは、それができずに消えていった。だから、現代人は誰もクリマコケラスを見たことがない。現生キリンの仲間で首が短く、1500万年前の東アフリカに生息していた種だ。
進化を目の当たりにできるという事実自体が、驚くべきことだ。ダーウィンは、弱い者を自然が取り除いていく過程は数十年ではなく数千年かけて起こるとした。だが、その後の人類は進化を引き起こす技術を高度に発達させ、ウサギやモモの品種改良を行って新たな種を誕生させているほか、絶滅しそうな弱い者たちを人類が助け、自然の状態よりも長く存続できるよう計らったりしている。
進化の例を自分自身で確かめたいなら、手始めに昆虫に目を向けてみてはどうだろう。今回の書籍に寄稿した科学ライターのジョセフ・ウォレスは、「昆虫は地球上に最も広く分布する、最も豊富な進化の実例だ」と記している。現代の科学者は、現生の昆虫は100万~3000万種に上るだろうと考えている。ウマやサイに比べれば体は小さいかもしれないが、巧みに環境に適応してきたことが、体長、色、餌など昆虫のあらゆる側面からわかる。
もっとわかりやすい例が見たいなら、自分の飼いイヌでもいい。ゴールデンレトリバー、バセットハウンドといった現代の犬種の大半は、ほんの数百年の歴史しかない。今日、交配の過程で生まれるあらゆる雑種が新たな血統の始まりであり、それが全く新しい何者かへと進化する可能性を秘めている。たった数年で効果を表す進化というわけだ。
イヌの場合、適者生存の「適者」は結局「一番かわいい者」という意味であるかもしれない。そうでなければ、なぜチワワが今も生きていて、ブレンバイザーは絶滅したのだろうか。子イヌの分娩にしばしば帝王切開を要するフレンチブルドッグは、人間の助けがなかったらいつまで存続できるのだろうか。
人間に関してはどうだろうか? 今回の書籍では、私たちが誕生した東アフリカの気候条件で、色の濃い肌や目、髪がどう発達したかが説明されている。色の薄い肌や金髪は、低温で曇りがちの土地に人々が移住したときに生まれた。現在の行動を考えると、今から数千年後の人類は多くの情報を取り込むために目が大きくなり、その処理のために脳が大きくなるかもしれない。ある研究では、未来の女性は小柄で太め、コレステロール値は低くなり、妊娠可能な期間が今より長くなると予想されている。
とはいえ、それは人間が絶滅しなければの話だ。今起こっている進化を研究する科学者の中には、私たちが今、第6の大量絶滅のただ中にいるのではないかと考える人々がいる。地球上の生物全体が死のアリ地獄にゆっくりと入っていき、今の生物多様性のほんの一部だけが取り残されるという見方だ。多様な生物たちがどのように終わりを迎え、その後に何が生き残るのか。答えを誰も予想できない理由の1つは、進化についての私たちの理解自体が進化の途上にあるからだ。
参考記事:
特集「ダーウィンになれなかった男 ウォレス」
国際ネイチャー写真賞グランプリ、特集「オランウータン 樹上の危うい未来」