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パプアニューギニアのミルン湾でダイバーを取り巻くように泳ぐバラクーダの群れ。(Photograph by David Doubilet)

水中写真の巨匠デビッド・デュビレ傑作写真集

2016.07.18
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 水中写真の第一人者、デビッド・デュビレ氏の写真が初めてナショナル ジオグラフィック誌に掲載されたのは1972年だった。以来、同氏は海で繰り広げられる営みやドラマを写真に収め、私たちに伝えて続けてくれている。

 なぜ水中写真の世界に足を踏み入れたのか。そして、絶えず変化する海のストーリーを伝え続ける意図はどこにあるのか。海洋保護区のサンゴ礁を撮影するためにフィリピンを訪れていたデュビレ氏に話を聞いた。印象的な写真とともにお届けする。

グレート・バリア・リーフのヘロン島近郊で特殊なレンズを使って撮影したサンゴの産卵。(Photograph by David Doubilet)
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──水中写真に興味を持ったのはなぜですか。

 10歳くらいのころ、ナショナル ジオグラフィックで見た写真家ルイス・マーデン氏とジャック・イブ・クストー船長の写真を見て、心から離れなくなりました。ふたりで海洋調査船カリプソ号のデッキに立っている写真です。クストー船長は世界に知られる伝説の人。ルイス・マーデン氏はナショナル ジオグラフィックの水中写真家で私のヒーローでした。彼のように秘密の世界を見せてくれる写真家になりたかったのです。

ダイビング前に打ち合わせするジャック・イブ・クストー氏とルイス・マーデン氏。(Photograph by Pierre Goupil)
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──初めて撮った水中写真は?

 それは情けないものでしたよ。魚の尻と人の足が暗く写った失敗作でした。その後は、米国ニュージャージー州やバハマの海でひたすら水中写真ばかり撮っていました。初めての成果は、13歳のときにバハマの海で減圧するダイバーを撮った写真でした。3位に入賞してかっこいいメダルをもらいました。今も大事にしています。

オーストラリアのホプキンス島近郊を優雅に泳ぎまわるオーストラリア・アシカ。(Photograph by David Doubilet)
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──当時の水中写真はどのようなものだったのでしょう。

 水中写真の分野にはクストー氏ら偉大な先人がいたものの、当時の原始的な機材で水中写真を撮ろうという人間は、まだほんの一握りでした。水中写真という分野はまだ確立されていなかったので、私たちは機材やその改善方法について話し合いました。

 水中は、良くて視程30メートルほどの世界。そこですばらしい写真を撮るのは簡単ではありません。海の中には神秘的で奇妙なものであふれていましたが、当時は光にも時間にも技術にも制約がありました。実際に「見える」ものを撮ることができないというのはもどかしいものでした。

グレート・バリア・リーフのヘロン島で撮影したアミメブダイの口。この歯を使ってサンゴを噛み砕く。(Photograph by David Doubilet)
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──これまで海で経験したもっともすばらしい瞬間は?

 たくさんあります。アシカと一緒に氷山の下に潜ったとき、楽しいのか心配なのか、そのうち1頭がずっとついてきました。パプアニューギニアのキンベ湾の近くでボートから潜ったときには、小さなメスのタイマイがやってきました。ダイビング中ずっと一緒で、私の方をいつも気にしつつ、サンゴの上で休んだり、海綿を食べたり、私が写真を撮るのを見たりしていました。ボンベを交換するために何度かボートに戻ったのですが、その間もずっとボートの下で待っているのです。
(参考記事:南太平洋のサンゴの楽園「特集:キンベ湾」

パプアニューギニア、キンベ湾を泳ぎまわるタイマイ。(Photograph by David Doubilet)
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 その日の最後のダイビングでは、タイマイは疲れてしまったのか、私が泳いでいる間ずっとボンベの上で休んでいました。とても感動的な体験でしたが、その場を離れるときとても心配になりました。間違って漁師のボートに近づき、捕まって現地のマーケットで売られやしないかと思ったのです。

──今はどんなことに興味がありますか。

 変化してゆく海を記録することに興味を持っていて、そのために赤道から極地まで泳ぎまわっています。氷山のすばらしさには圧倒されます。氷山は海そのものを表しているように思えてなりません。目に見えるのは、ほんの一部だけなのです。

 グリーンランドのスコースビーサウンド・フィヨルドにあるレッドアイランドには、美しい氷の芸術といえる氷山がありますが、それが物語っているのは氷河が後退しているという醜い事実です。誰もが無視できない気候変動のこともはっきり伝えたいと思っています。

カナダ、セントローレンス湾の海氷の上で母親の帰りを待つタテゴトアザラシ。(Photograph by David Doubilet)
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 カナダ、セントローレンス湾でのナショナル ジオグラフィック誌の取材でもそれを感じました。ホワイトコートと呼ばれるタテゴトアザラシの子どもは海氷の上で生まれます。気温の上昇によって安定した海氷がなくなり、多くの子どもが死んでいます。

──あなたにとって写真は大事なことを伝えるための手段とうかがっています。写真を通じて何を伝えたいと思っていますか。

 あるテーマについて、別の見方を促すようなアプローチがしたいのです。たとえば、ウミウシという毒を持つ小さな生き物がいます。これは派手な模様と鮮やかな色が特徴で、「食べたら死ぬよ」ということをアピールしています。

 この生物は海中だと背景に紛れてしまうので、面と向かって「見る」ことができるようにしたいと思いました。そこで、三脚に取りつけた小さなアクリル製のセットを作りました。これを運んでウミウシがいる場所まで潜り、専門家が慎重にこの生物をセットに移動させ、ファッションモデルを撮るように撮影したあと、元いた場所に戻すのです。
(参考記事:ウミウシの写真をもっと見る「特集:ウミウシ」

小型セットで撮影したウミウシ。カメラに向かって笑っているように見える。(Photograph by David Doubilet)
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──赤道から極地まで、世界中をまわって水中写真を撮り続けている理由は何ですか。

 潜り続け、撮影し続けているのは、写真によって自然を知ってもらい、讃えてもらうためです。写真は世界共通の言語で、人々の心をつかみ、考え方や行動を変える力を持っています。海では今、大変な問題が起こっています。海で問題が起これば、私たちにも問題が起こります。

バハマで撮影したレモンザメ。ここ10年でサメの数は激減している。(Photograph by David Doubilet)
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──私たちにできることは何でしょうか。

 小さな変革が大きな違いを生みます。持続可能なシーフードを食べること。プラスチックをリサイクルしたり減らしたりすること。それに皆さんが科学の知識を深めることも重要です。そしてぜひ海に足を運び、海にじかに触れてみてください。

次ページ:写真は続きます。駿河湾やクラゲの湖も

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