提供/岩崎量示

 「深く息を吸い込むと、鼻の中が凍る。足元の雪が、薄いガラス片を踏んだような音を鳴らす。一歩外に出ただけで、その日の空気が昨日のそれとは違うことを体感する冬の朝がある…そのとき温度計が示すのは、氷点下20℃近く…華氏に換算すれば0度の朝だ」

 冬には日中でも氷点下が当たり前という国内屈指の厳寒地、北海道・十勝地方。その「寒さ」を表現した写真と手記を、本誌2016年1月号に掲載した。

 1979年、埼玉県生まれ。大学を卒業した後、働いてお金を貯めては北海道や沖縄を訪れ、キャンプしながら原付バイクで何カ月も旅をした。そのなかで出合ったのが、現在の居住地である北海道上士幌町糠平(ぬかびら)だ。2005年、現地に職を見つけて移住した。

 糠平に住み始めてから、近くのダム湖に残るかつての鉄道橋「タウシュベツ川橋梁」に魅せられ、写真を撮り始めた。打ち捨てられた橋は、コンクリートの割れ目に染み込んだ水が凍結と融解を繰り返すことで、冬を越すごとに崩落へ近づいている。壊れゆく橋の記録と併せ、数年前、橋を壊す「寒さ」にも注目するようになった。そうして生まれたのが、この「華氏0度の世界」の作品群だ。

 「2~3年後に壊れる」と思って10年前に撮り始めたタウシュベツ川橋梁は、今も11連のアーチを残している。今後も、橋が崩壊してなくなるまで撮影を続けるという。最近では、大雪山国立公園に位置するこの地域の自然や動物にも、レンズを向けるようになった。


『ナショナル ジオグラフィック日本版』2016年1月号「写真は語る」に、写真を追加して掲載した。