ファッション業界や広告の分野で活躍してきた写真家の西村裕介は、2012年の夏、明治神宮で行われていた祭事で、東北地方の民俗芸能をたまたま目にし、その力強い舞いと異形ぶりに魅了された。

 それから3年間、日本各地の祭りに足を運び、準備を手伝いながら、演者たちの姿を撮影していった。「祭事の独特の雰囲気によって彼らの表情が変わる。その空気感が何よりも大事だった」と西村は話す。

 写真はすべて黒い幕を背景にして撮影されている。広告写真などでよく使われる手法だ。黒幕を使って、それぞれの祭りの地域性を排除することにより、民俗芸能にこめられた日本人の心を際立たせられると考えたからだ。

 このプロジェクトを通じて、西村は意外な事実を知ったという。伝統を受け継ぐ演者のなかには、芸能のいわれや歴史を知らない人が多かったのだ。また、印象的だったのは、伝統の踊りや衣装を変えていきたいと考える革命的な人たちとの出会いだった。

 こうした人たちの思いが、民俗芸能の意味合いや形を変えてきた。そして古くなった芸能の精神を新たにし、次の世代から何百年も先へと伝承していく力を与えてきたのだと、西村は感じた。

 写真集『The Folk』には全国49の伝統芸能が収められている。


『ナショナル ジオグラフィック日本版』2016年10月号「写真は語る」に、写真を追加して掲載した。