多焦点合成によるハエトリグモの写真で、日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2015のネイチャー部門最優秀賞を受賞。本誌8月号「写真は語る」に手記と写真を掲載した。

 1964年東京都生まれ。写真の世界へ足を踏み入れたきっかけは、初めて見たオーロラへの感動だった。オーロラの見える地域を毎年訪れ、18年ほど撮影を続けた。悪天候が続いてオーロラが撮れずにいたある日、ふと接写レンズでのぞいた雪の結晶の美しさに息を呑む。「これをカメラでとらえられないだろうか?」と接写用の機材の工夫を重ねるうちに、雪のない時期、レンズのテスト用に何の気なしに撮ってみたのがクモだった。

「実は子どもの頃から、生と死のドラマが交錯するドキュメンタリー番組が大好きでした」。だが野生動物の世界で、実際にそんな光景を目にする機会はめったに訪れない。ある時、機材のテストのために立ち寄った都内の公園で、ハエトリグモが獲物に飛びかかる瞬間を目撃した。遠路はるばる出かけなくても、求めるドラマはすぐ足元で繰り広げられていたのだ。

「クモの姿や迫力を、感じたままに写したい」と試行錯誤を繰り返した。体長7ミリ前後のクモをアップで撮るとピントが合うのは一部だけで、あとはぼやけてしまい、行き詰まりを感じていた。だが2013年、フォーカススタッキング(多焦点合成)という技法の存在を知った。これなら焦点をずらしながら撮影した複数の画像をデジタル合成することで、精細な表現が可能になる。

 多焦点合成の撮影にはわずかな風も大敵だ。そこで自宅で鉢植えの花を舞台に“スタジオ撮影”を始めた。撮影後のクモは元いた場所にリリースするが、時には生態を深く知るため、しばらく飼うこともある。すると、それまで断片的に見てきた場面同士がつながりをもち始め、「食べて、寝て、子孫を残す」といった、どこか人間と共通する営みも見えてきた。「マクロレンズを通して見るクモたちの世界は、新鮮な驚きに満ちていました」


『ナショナル ジオグラフィック日本版』2016年8月号「写真は語る」に、写真を追加して掲載した。