米国での処方数はパクスロビドの方が多く、2021年12月に米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可を受けて以来、約300万回分が処方されている。一方、ラゲブリオの処方数は約50万回分と少ない。(参考記事:「続々登場? 新型コロナの抗ウイルス飲み薬、今わかっていること」)
ケース・ウエスタン・リザーブ大学の調査では、パクスロビド服用患者の約3.5%が、最後の服用から7日以内にリバウンドを経験した。ラゲブリオ服用患者の場合は6%に近かった。30日以内ならそれぞれ5.4%と約9%だった。
7月上旬以降、米国ではオミクロン株のBA.5系統が主流となっているが、一部の医師は、今はリバウンド事例が増えているうえ、今後も増え続けると考えている。例えばフロリダ州ダベンポートの内科医、アフタブ・カーン氏によれば、担当する患者のうち、パクスロビドを服用した高齢の患者の約4分の1がリバウンドを経験しているという。オミクロン株は抗体を巧みに回避するため、今後もリバウンドは増えるだろうと氏は予測している。
リバウンドと抗ウイルス薬との関連性は?
リバウンドが発生する割合は、抗ウイルス薬を服用している患者の方が高いとみられているが、両者の関連性について確定的なことを言うにはデータが不十分だ。
ファイザーが実施したパクスロビドの治験では、プラセボ(偽薬)を投与された患者とパクスロビドを投与された患者のリバウンド率がほぼ同じだった。CDCは、抗ウイルス薬を服用したかどうかに関わらず、症状が短期間で再発することは一部の新型コロナ患者における「自然な経過の一部かもしれない」との見解を示している。CDCはこうした観点から、広く使用されている「パクスロビド・リバウンド」という表現を避け、「COVID-19(新型コロナ感染症)リバウンド」と呼んでいる。
だが、エール大学のロバーツ医師は、抗ウイルス薬が承認される以前も一部で症状の再発はみられたものの、発生はごくまれだったと話している。
そもそも新型コロナ感染症がリバウンドする原因も、現時点では不明だ。ジェテリーナ氏によれば、一部の患者では、抗ウイルス薬がウイルスを十分に排除できていない可能性がある。そのため5日目以降に患者が服薬をやめると、ウイルスが再び増殖し始めるということが考えられるという。(参考記事:「新型コロナウイルスはいつまで体内に残るのか、後遺症との関連は」)
あるいは、早すぎる投薬開始がリバウンドを引き起こしている可能性もある。今のところ、できる限り速やかに投与を開始することが推奨されており、発症後5日以内が望ましいとされている。だが、これでは免疫系が働く時間を十分に与えられていないのかもしれない。
感染から回復した後に再感染した例も「リバウンド」に数えられている可能性はある。だが、それでは回復後に新たにウイルスに接触する機会がなかった患者がリバウンドしたケースを説明できない。
ファイザーの広報担当者、キット・ロングリー氏は、リバウンドの原因はウイルスがパクスロビドに耐性を獲得したことではないと説明している。ただし、同社は引き続きデータを注視するとしている。ファイザーの研究者たちは、査読前論文を投稿するサイト「Research Square」で2022年6月21日に公開した論文で、独自の研究結果の詳細を明らかにし、リバウンドはパクスロビド服用患者におけるウイルスの変異とは無関係だと結論づけた。
この結果は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のチームが6月20日付けで医学誌「Clinical Infectious Diseases」に発表した論文の内容と一致している。同チームは、オミクロン株BA.2のリバウンドが発生した1人の患者について、パクスロビドと中和抗体へのウイルスの反応について詳しく調べた。その結果、リバウンドは薬剤耐性や免疫低下が原因ではなく、ウイルスが薬に十分にさらされなかったからだった可能性が高い、と結論づけている。
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