米国の手前までやってきた「絶滅危惧種」ジャガーに国境の壁

米国では絶滅危惧種、かつての生息地に戻ってくるか

2022.08.04
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米国では絶滅危惧種

 アリゾナ州とニューメキシコ州にある国境地帯と、そこに広がる山岳地帯「スカイ・アイランド」は、生物の多様さでは北米屈指の地域だ。山岳地帯に分布するソノラ砂漠とチワワ砂漠の乾燥した大地、いくつもの草原や水辺は、数万種もの動植物の生息地となっている。古来から、ジャガーやピューマ、オセロット、クマ、その他の多様な動物が、この連続したバイオーム(生物群系)を自由に移動していた。だが、いまでは道路やフェンスがこの移動を妨げている。

 それでも、この25年間にアリゾナ州では少なくとも7頭のジャガーが目撃された。そのうちの1頭は、現在も同州南東部の山岳地帯に生息している模様だ。

2020年10月、生物学者のガネーシュ・マリン氏が設置したカメラが自動撮影したジャガー「ボニート」。その後、2頭目のジャガーも確認された。この目撃データは、野生動物回廊の保護と生息地回復の重要性を示している。(PHOTOGRAPH BY GANESH MARIN MENDEZ)
2020年10月、生物学者のガネーシュ・マリン氏が設置したカメラが自動撮影したジャガー「ボニート」。その後、2頭目のジャガーも確認された。この目撃データは、野生動物回廊の保護と生息地回復の重要性を示している。(PHOTOGRAPH BY GANESH MARIN MENDEZ)
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 また、2021年3月16日付けで学術誌「Oryx」に発表された論文では、この地方の広大な一帯がジャガーに適した生息域であり、数百頭のジャガーの群れが暮らすことができる環境と推定された。ジャガーは、米国の種の保存法(ESA)に基づく「絶滅危惧種(Endangered)」に指定されている。

 メキシコのソノラ州には、約200頭のジャガーが生息している。メキシコ国立自治大学の研究者、ヘラルド・セバロス氏によれば、マリン氏が確認した2頭のジャガーは、どちらも米アリゾナ州に近い、国境から約100キロ以内の場所で生まれたらしい。

 一般に、メスのジャガーは生まれた場所からあまり遠くに移動することはなく、この特性はジャガーの生息域が広がりにくい要因になっている。だが、オスのジャガーは、縄張りと交尾の相手を求めて広い範囲を移動する。ただしメキシコのジャガーは、家畜を襲われた農家から報復や密猟など、さまざまな脅威にさらされている。

「ジャガーの保護対策を続ければ、5年足らずのうちに、米国国内で妊娠したメスを確認できるかもしれません」と、セバロス氏は言う。

 しかし、ジャガーが北に移動するには、野生動物のための回廊が不可欠だ。国境の壁が延長されると動物は自由に移動できなくなるため、専門家たちは壁の一部を開放する必要があると指摘している。国境の壁を著しく拡張することはないとバイデン政権は約束した。また、野生動物への悪影響を縮小する措置の検討も行われている。しかし、大幅な改善はいまだに実現していない。

「残念なことに、国境の壁は、米国に移動しようとするジャガーにとって新たな障害となっています」。こう話すのは、ジャガーの研究者で、保護団体「ハグアレス・デ・ラ・セルバ・マヤ」の生物学者、アントニオ・デ・ラ・トーレ氏だ。「ジャガーの生息域を北に自然に拡大したいのなら、この問題を解決する緩和策が不可欠です」

次ページ:生息地を保護すれば、動物は集まってくる

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