「巨大な農業機械で効率生産」のはずが、実は減っている収穫量

気づかぬうちに肥沃な土壌の喪失が起きている

2022.07.27
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米国カンザス州の農場で小麦を収穫するコンバイン。大型化した農業機械は農業の効率を飛躍的に高めた半面、土壌の深い層を押し固めて収穫量を減少させる恐れがある。(PHOTOGRAPH BY GEORGE STEINMETZ, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
米国カンザス州の農場で小麦を収穫するコンバイン。大型化した農業機械は農業の効率を飛躍的に高めた半面、土壌の深い層を押し固めて収穫量を減少させる恐れがある。(PHOTOGRAPH BY GEORGE STEINMETZ, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 土壌生物学と土壌構造の専門家であるトーマス・ケラー氏とダニ・オー氏と、トラクターやコンバインなどの農業機械について話を始めると、遅かれ早かれ、恐竜の話題になってしまう。いったい、なぜだろう。2人は、農業機械の大型化が進んだことでかつて地球を踏みしめた最大の動物である恐竜とほぼ同じ重さになっており、世界で最も貴重な資源の1つである肥沃な土壌を押しつぶそうとしていると、最近の論文で説明している。

 米国ネバダ州リノにある砂漠研究所とスイスのチューリッヒにあるスイス連邦工科大学を行き来しているオー氏は、「農業機械は100年以上にわたって大型化し続けている」と言う。

 大型化の傾向が顕著になったのは、この60年あまりのことだ。オー氏とケラー氏は、トウモロコシや小麦用のコンバイン収穫機の重量を調べ、1958年には約4トンだったのが、2020年には約36トンになっていることを発見した。これは、恐竜で最も重い竜脚類に匹敵する重さである。ちなみに、現存する陸上動物として最も重いアフリカゾウでも、体重はわずか9トンだ。

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 スウェーデン中部の都市ウプサラにあるスウェーデン農業科学大学教授のケラー氏は、「農業機械の大型化によって農作業の効率はめざましく向上した」と話す。なかには、1時間で東京ドーム2.5個分に相当する12ヘクタール分の小麦を刈り取る性能を持つ収穫機もある。

 この驚くべき効率性によって、世界人口の約5%の人々で残り95%分の食料を生産できるようになった。ただし、「そのために、世界の土壌は大きなダメージを受けている」というのが、オー氏とケラー氏の主張だ。彼らは、大型農業機械が最も広く使われている北米、ヨーロッパ、ブラジル、オーストラリアでは、耕作可能地の土壌の約20%が農業機械の重みで押し固められてしまっていると推測している。いったんダメージを受けた土壌は、回復するまでに数十年かかるといわれている。

土壌圧縮で収穫量が50%減の畑も

「収穫量が減少していることを示す証拠もあります」とオー氏は言う。「小麦をはじめとする穀物の品種改良が進んでいるにもかかわらず、収穫量は一貫して低下しています。いろいろな原因が考えられますが、農業の機械化が進んでいる場所のほとんどで収量が低下しているようです」

 最近のある研究では、重い農業機械が引き起こす土壌圧縮により、いくつかの畑の収量が50%も減少したと報告している。この傾向が続けば、土壌圧縮と土壌流出により、世界の穀物の収穫量は20%も減少する可能性がある。(参考記事:「2050年、50億人が食料と飲料水の危機に直面する」

 土壌圧縮は、農家も気づかない被害だけに、事態は深刻だ。農機具メーカーは、重い農業機械に巨大なタイヤを装着させることで荷重を広く分散させ、土壌への影響を抑えようとしてきた。しかし、土壌に農業機械の全重量がかかることに変わりはない。例えば、オートバイはトラクターよりも畑の表面に深く跡を残すが、トラクターによる衝撃のほうが、土壌のより深くまで及ぶ。太いタイヤは思わぬ場所に衝撃を拡散させているのだ。

次ページ:大型農業機械から小型ロボットへ

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