疑惑の化石で論文が撤回された恐竜「槍の神」 ブラジルに返還へ

ドイツの博物館が決定、化石返還運動の象徴的存在となる可能性

2022.07.24
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白亜紀のブラジルに暮らしていた小さな羽毛恐竜が、原産国から持ち出された重要な化石を返還するキャンペーンの主役になっている。(ILLUSTRATION BY BOB NICHOLLS, PALEOCREATIONS.COM)
白亜紀のブラジルに暮らしていた小さな羽毛恐竜が、原産国から持ち出された重要な化石を返還するキャンペーンの主役になっている。(ILLUSTRATION BY BOB NICHOLLS, PALEOCREATIONS.COM)
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 これは古生物学にとって画期的な決定になるかもしれない。ドイツ当局が他に類を見ない羽毛恐竜の化石をブラジルに返還すると発表した。

 この恐竜は1億年以上前のブラジルに暮らし、「ウビラジャラ・ジュバトゥス(Ubirajara jubatus)」と名付けられた。先史時代に存在したどの生物とも異なり、肩から槍のような長い羽毛が突き出ていた。現代の鳥と同じように、社会的地位を争うため、あるいは求愛行動のために使われていた可能性が高い。このよく目立つ羽毛が名前の由来だ。ウビラジャラはブラジルの先住民トゥピ族の言葉で「槍の神」を意味する。

 この発見は2020年末に学術誌に発表され、高く評価された。しかし、第一報が伝えられるやいなや、この化石がブラジルからドイツのカールスルーエ州立自然史博物館(SMNK)に輸出された過程は非倫理的であり、違法の可能性すらあると専門家から指摘された。

 この1年半、ブラジルの古生物学者たちは、化石を本国に返還するよう求め、現代の古生物学に影を落としてきた植民地主義を非難する世界的な運動を展開してきた。南米初の羽毛が生えた非鳥類型恐竜ウビラジャラは、化石返還論争における主役の一つとなった。

 SMNKがあるドイツ、バーデン・ビュルテンベルク州政府は19日、ウビラジャラをブラジルに返還するというテレジア・バウアー科学相の提案を承認した。州政府は決定の理由として、化石がドイツに輸入された経緯、取得の合法性についての疑惑を挙げている。

 バウアー氏はナショナル ジオグラフィックに宛てたメール声明のなかで、「私たちは明確な立場を持ち、それを一貫した行動で表現しています。私たちの博物館の収蔵品に法的、倫理的に受け入れがたい条件で取得されたものがある場合、返却を検討する必要があります」と述べている。「重要性が高く、取得の経緯に疑問があることを考えると、ウビラジャラはそれが所属する場所、つまり、ブラジルに返還されるべきです」

 この決定はウビラジャラの運命を明確にするだけでなく、ウビラジャラをきっかけに起きた運動の新たな一章の始まりを告げるものだ。

 この化石の法的な位置付けを巡る論争が勃発してから、古生物学に焼き付けられた不平等を示す論文が次々と発表されている。多くの場合、植民地主義の歴史が影響を与えているという。

 2021年12月30日付けで学術誌「Nature Ecology & Evolution」に発表された研究では、古生物学の重要なデータベースに登録されているデータの97%が、富裕国と高中所得国の科学者によって入力されていることが判明した。経済格差によって化石記録に偏りが生じる一因だ。また、同じく2022年3月2日付けの学術誌「Royal Society Open Science」に発表された論文は、種を定義するブラジルの化石がドイツの博物館だけで数十個確認され、ほかの富裕国でもいくつか見つかったと報告している。

次ページ:論文の撤回は初めて

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