この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年8月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

英国南部にある先史時代の遺跡、ストーンヘンジ。その巨石の起源に新説が登場した。当時、巨大建造物を造るブームがブリテン諸島で起きていたという。

 およそ4500年前の新石器時代末期、グレート・ブリテン島南部には奇妙な旋風が吹き荒れていた。

 宗教的な熱狂か、差し迫る変化の予感か、その正体は不明だが、人々は何かに取りつかれたように、次々に壮大な建造物を築いた。

 驚くほど短い期間、ことによるとわずか100年ほどの間に、金属製の道具や馬力、車輪を利用するすべを知らない人々が、グレート・ブリテン島で巨大な環状列石(ストーンサークル)、多数の木杭を立てて造った柵、石が立ち並ぶ壮麗な道(アベニュー)の多くを築いたのだ。そのために森林から大木が次々に切り出され、大量の土が掘り返された。

ストーンヘンジは世界的に知られ、何百年も調査されてきた。だが、新技術が古代の姿に対する解釈を変えつつあり、私たちが知り抜いていると思っていたストーンヘンジでさえ新発見があると、考古学者のビンス・ガフニーは話す。(PHOTOGRAPH BY REUBEN WU)<span style="color: #b1b1b1; ">*11枚の画像を重ね合わせた</span>
ストーンヘンジは世界的に知られ、何百年も調査されてきた。だが、新技術が古代の姿に対する解釈を変えつつあり、私たちが知り抜いていると思っていたストーンヘンジでさえ新発見があると、考古学者のビンス・ガフニーは話す。(PHOTOGRAPH BY REUBEN WU)*11枚の画像を重ね合わせた

「ひなびた村々が奇妙な熱狂に包まれたようでした。もっと大きく、もっと素晴らしい、もっと複雑な建造物を、もっともっと造ろう。そんな思いが人々を駆り立てたのです」と、英国の歴史的建造物保護機関「イングリッシュ・ヘリテージ」のスーザン・グリーニーは語る。

 この古代の建造ブームが残した最も有名な遺跡がストーンヘンジだ。英国イングランド南部のソールズベリー平原には、巨石群を一目見ようと、大勢の人々が押し寄せる。古代の巨石建造物は何百年もの間、訪れた人を魅了し、その謎のとりこにしてきた。1130年頃には、「ハンティンドンのヘンリー」という中世の歴史家がイングランドの奇跡の一つとしてこの遺跡を紹介し、建造の目的も方法も誰も知らない、と書き残した。これは、知られている限り最古のストーンヘンジに関する記述だ。

ストーンヘンジ
ストーンヘンジ
1年間にストーンヘンジを訪れる人の数は最高で160万人に及ぶが、なかにはひっそりとこの場所の雰囲気に浸る人もいる。ロンドン在住のゲーリー・フォレスターと幼い娘のビビアンは、暖かな晩夏の夕べ、はだしになって大地とのつながりを実感する。この遺跡を管理する保護機関、イングリッシュ・ヘリテージのニコラ・タスカーはこう話す。「長い歳月に耐え、興亡を繰り返してきた遺跡には人々を引きつける何かがあるのです」(PHOTOGRAPH BY ALICE ZOO)

 以後900年ほど、誰がこの壮大な環状列石を築いたのかという問いに、さまざまな説が出された。古代ローマ人、古代ケルトの祭司(ドルイド)、バイキング、サクソン人、果てはアーサー王のお抱えの魔術師マーリンの名前まで挙がったが、真実を探る研究は困難を極める。なぜならストーンヘンジを造った人々は、文字も、物語も、伝説も残さず、わずかな遺骨と土器の破片、石、シカの角で作った道具、そして多数の謎めいた建造物だけを残して、姿を消してしまったからだ。そうした建造物のなかには、ストーンヘンジを上回る規模のものもある。

スタントン・ドルー
スタントン・ドルー
ドルイド教徒のエイドリアン・ルーク(上)が立石と心を通わす。英国の巨石建造物は古代ケルトの祭司(ドルイド)が建てた寺院だったという説を、18世紀の英国教会の聖職者が広めた。この説はとっくに葬り去られているが、現代のドルイド教徒は環状列石に神秘的な力を感じ、集まって儀式を行う。(PHOTOGRAPH BY ALICE ZOO)

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