フィリピンのパンガタラン島海洋保護区で、泥だらけの海底を蹴って、堆積物を巻き上げるカブトガニ。10年にわたる環境回復活動の末に、湾内はプランクトンが豊富になり、より大型の動物が再び生息できる環境になった。(PHOTOGRAPH BY LAURENT BALLESTA)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年8月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
4億5000万年前から海の底で生きてきたカブトガニ。現在は人間の命を救うために重要な役割を果たしているが、そのために、大きな犠牲を払うことになっている。
先のとがった尾剣(びけん)や鉄兜(てつかぶと)のような甲羅、脚に付いた鋭いはさみ。そんな姿をあまり変えることなく、カブトガニ類は約4億5000万年もの間、海の底をはい回ってきた。恐竜たちの命を奪った小惑星の衝突は首尾よく生き延びたが、人間の所業をかわすのは難しいかもしれない。ほかの海洋生物と同様、カブトガニ類も乱獲されたり、産卵場所を破壊されたりしてきた。さらに、その青い血液にはワクチンを作るのに欠かせない希少な凝固剤が含まれることから、大量に捕獲されてもいる。人間のために血を抜かれた個体が命を落とすことも多い。
甲羅の内側には小さな生態系が隠れている。体表の毛のようなものは微細で綿毛状のヒドロ虫類で、はさみにはエビがまとわりついている。こうしたほかの生き物との相互関係についてはまだほとんど知られていない。(PHOTOGRAPH BY LAURENT BALLESTA)
4種いるカブトガニ類のうち、日本で一般にカブトガニと呼ばれている種(Tachypleus tridentatus)は、過去60年間で個体数が半分以下になった。だが、フィリピンの小さなパンガタラン島では、予期せぬ回復力の象徴になっている。この島では長年、森林やサンゴ礁といった自然環境が破壊されてきて、カブトガニよりも大きな動物がほとんど姿を消した。
SOREN WALLJASPER, NGM STAFF
出典:STINE VESTBO AND OTHERS, FRONTIERS IN MARINE SCIENCE, MAY 2018; DAVID SMITH AND OTHERS, REVIEWS IN FISH BIOLOGY AND FISHERIES, MARCH 2017; JOHN AKBAR AND MARK BOTTON, IUCN SSC HORSESHOE CRAB SPECIALIST GROUP
出典:STINE VESTBO AND OTHERS, FRONTIERS IN MARINE SCIENCE, MAY 2018; DAVID SMITH AND OTHERS, REVIEWS IN FISH BIOLOGY AND FISHERIES, MARCH 2017; JOHN AKBAR AND MARK BOTTON, IUCN SSC HORSESHOE CRAB SPECIALIST GROUP