2年以上にわたる新型コロナウイルスの流行に疲弊した世界で、また別の感染症であるサル痘がかつてないスピードで広がり続けている。サル痘ウイルスは新型コロナウイルスとは大きく異なり、ずっとうつりにくいものの、入院や死亡の危険がないわけではない。また、皮膚に数個〜数千個できる膿の入った病変のあとが、生涯消えない場合もある。
英オックスフォード大学の研究者などが運営するデータサイト「グローバル・ヘルス」によると、7月11日までに71カ国で感染または疑い例が報告され、感染者は8127人にのぼる。6月27日以降、感染者はほぼ倍になっている。
米国では、37の州、コロンビア特別区、プエルトリコでサル痘が見つかっている。米国内の感染者数は11日の時点で866人であり、大半は比較的軽症であるものの、アフリカでは3人の死亡が確認された(編注:7月12日の時点で、日本の厚生労働省は「2003年以降、輸入例を含めサル痘患者の報告はありません」とHPに記載)。
サル痘が今広まっているのは主に、男性と性交渉を持つ男性という特定のネットワークの内部だ。
しかし、おそらくは「かなりの数の患者をとらえられていない」可能性が高いと、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は述べている。検査数が限られているうえ、患者の中には病変が比較的少ない者もいることが、患者数のカウントをさらに複雑にしている(編注:2022年5月以降の欧米を中心とした流行では、従来の報告とは異なり、病変が局所に集中して、全身に発疹が見られない場合があることを日本の国立感染症研究所も指摘している)。
サル痘ウイルスが流行しているアフリカへの渡航歴のない人々の間で感染が見られたり、新たな場所で突然感染者が出たりするなど、感染状況の把握は厳しさを増している。「安穏としていられる状況ではありません。特に欧州地域では、時間、日、週を追うごとに、これまで感染例がなかった地域にも感染が広がっています」と、WHOのヨーロッパ地域ディレクター、ハンス・アンリ・P・クルーゲ氏は述べている。
WHOの緊急委員会は、7月18日の週に、サル痘の流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当するかどうかを再検討する。同委員会は、サル痘の蔓延を抑制するには「集中的な対応努力」が必要であるとすでに指摘している。
今回のような複数国での発生は「驚き」だが「意外ではない」と語るのは、WHOでサル痘の技術リーダーを務めるロザムンド・ルイス氏だ。アフリカでは数十年前から感染者数が増え続けている。ナイジェリアで進行中のアウトブレイク(集団感染)は2017年に始まり(現在の感染拡大の起源である可能性がある)、またコンゴ民主共和国(DRC)では2020年には疑い例が2000件を数えた。
サル痘の感染者数は、新型コロナとは比べものにならないものの、人間が野生動物に感染させることで、新たな「病原巣」をうっかり作り出してしまうことを専門家は懸念していると、米疾病対策センター(CDC)の疫学者アンドレア・マッカラム氏は言う。その野生動物からウイルスが再び人間にうつれば、根絶はより困難、あるいは不可能になるだろう。(参考記事:「適切な専門家に聞く「新型コロナ」の読み解き方」)
現在、サル痘の感染拡大を防ぎ、新たなパンデミックを回避するために、世界的な取り組みが行われている。以下に、サル痘のウイルス、リスク、予防について知っておくべきこと、また予防接種の必要性についてまとめた。
おすすめ関連書籍
おすすめ関連書籍
伝染病の起源・拡大・根絶の歴史
ささいなきっかけで、ある日、爆発的に広がる。伝染病はどのように世界に広がり、いかに人類を蹂躙したのか。地図と図版とともにやさしく解き明かす。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:2,860円(税込)