野生動物の違法な売買防止に、内情を知る「密売人」が協力

修復的司法に基づく社会奉仕プログラムの試みが米国で始まる

2022.07.12
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ユアン・シー氏は、この写真のトウブハコガメなど、米国から中国に数百匹のカメを密輸していた。シー氏の処罰には、野生動物犯罪の研究者に協力する社会奉仕活動が盛り込まれた。(PHOTOGRAPH COURTESY OF NEW ENGLAND AQUARIUM / VANESSA KAHN)
ユアン・シー氏は、この写真のトウブハコガメなど、米国から中国に数百匹のカメを密輸していた。シー氏の処罰には、野生動物犯罪の研究者に協力する社会奉仕活動が盛り込まれた。(PHOTOGRAPH COURTESY OF NEW ENGLAND AQUARIUM / VANESSA KAHN)
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 野生動物犯罪の解明と防止を専門とする米メリーランド大学教授のメレディス・ゴア氏は、密売人だったユアン・シー氏と、Facebook(フェイスブック)やWeChat(微信、ウィーチャット)などのSNS(交流サイト)で確認できた売買が禁止されている野生動物の宣伝に関する投稿について議論を交わしていた。今日の主な話題は、保護対象のカメだ。(参考記事:「野生生物の密輸増加、手口も巧妙化」

 米オレゴン州ユージーンに住んでいたユアン・シー氏が、自宅から中国へ保護対象種の数百匹のカメを密輸しようとした罪で、米魚類野生生物局に逮捕されたのは2018年のこと。

 2021年9月に判決が下され、シー氏は、連邦保護観察5年間、野生動物犯罪撲滅のための連邦基金に支払う罰金1万5000ドル(約200万円)、押収されたカメの世話をする団体への賠償金約2000ドル(約27万円)の支払いを、連邦判事から言い渡された。また、500時間の社会奉仕活動も命じられた。(参考記事:「チーターを密輸、年間数百頭か、地域初の有罪判決」

研究者が注目する前例のない取り組み

 シー氏の社会奉仕活動は、通常とは異なる。シー氏は一定時間をゴア氏と過ごさなければならない、というものだ。シー氏は、インターネット上に掲載されている違法な野生動物販売を宣伝する投稿を探し、その結果をゴア氏の研究グループと共有するデータベースに報告することになった。

 有罪判決を受けた動物密売人に野生動物犯罪調査への参加を義務づける処罰は、オレゴン州連邦地検と魚類野生生物局による新たな取り組みだ。現在、シー氏のほか2人に試行されている。

「ゴア氏の活動は画期的だ」。オランダの犯罪法律研究所で野生動物犯罪研究グループをコーディネートするアンドリュー・レミュー氏は、この取り組みを評価する。ゴア氏やほかの野生動物犯罪研究者も、「野生動物犯罪防止に修復的司法を活用する試みは、どの国家でも機関でも前例がない」と口をそろえる。修復的司法とは、ある犯罪の利害関係者たちが、その犯罪がもたらした被害と今後の対応について集団で協議して解決を図るプロセスを指す。

 シー氏の事件を担当した連邦検事補のパム・パアソ氏は、「この点を判決に盛り込むことができたのは、うれしい驚きでした」と語っている。パアソ氏によると、魚類野生生物局特別捜査官のポール・モントゥロイ氏がこのアイデアを提案した。「今後の犯罪を未然に防ぐためには、なぜ人々がこうした犯罪に手を染めるのか、その根本的な理由を探ることが重要です」とパアソ氏は話す。

 モントゥロイ氏がゴア氏に打診したところ、罪を犯した人たちとの対話を通じて研究に関する情報が得られるチャンスとして、ゴア氏はこの提案を歓迎した。

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