海氷が減っても生き延びるホッキョクグマ、「特別な集団」を発見

グリーンランド南東部の群れ、実は「地球で最も遺伝的に孤立」していた

2022.06.23
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【動画】ホッキョクグマに大接近
写真家のフロリアン・シュルツ氏が、大迫力のホッキョクグマの姿を写真に収めた。その様子に密着する。

なぜかすみかに戻るクマたち

 ライドラ氏によれば、南東部の集団は「地球で最も遺伝的に孤立したホッキョクグマたち」だ。南東部の集団が他と大きく異なった遺伝子を持つ理由は、おそらく「創始者効果」のためと思われる。

 創始者効果とは、大きな集団から少ない個体数が分離して新たな集団を創始し、そのなかで何世代も近親交配を重ねると、遺伝的にほかと異なる集団が形成される現象だ。遺伝子分析により、南東部のホッキョクグマは全て、そう遠くない約200年前に共通祖先がいたことがわかった。

 創始者のクマたちを孤立させた原因として最も考えられるのは、グリーンランド東岸沖を南向きに勢いよく流れる東グリーンランド海流だ。この海流は海氷を小さく砕きながら、ベルトコンベアのようにそれらを北東部の沖から南へ押し流している。

 ウガルテ氏によると、毎年のように北東部では何頭かのホッキョクグマが氷に乗って流されるという。運が良ければ、グリーンランド最南端のファーベル岬を回り、島の反対側にあたる南西部の陸地にたどり着き、そこから北や西のカナダへ向かうことができる。しかし、なかには海でおぼれ死んでしまう個体もいる。

「この新しい集団が特に興味深いのは、そんな目に遭ったときにどうすればいいのかわかっているようだということです」と、ウガルテ氏は言う。追跡していたホッキョクグマのうち、11頭が氷に乗ったまま流され、2週間もしないうちに平均190キロも移動していた。しかし、それから1~2カ月のうちに全てのクマが極寒の海を泳いだり陸地を歩いたりして、元のすみかへ戻っていた。

あくまで一時的な待避所

 40年以上にわたってホッキョクグマと北極圏の研究をしてきたカナダ、アルバータ大学の生物学教授アンドリュー・デロシェール氏は、今回の研究には参加していないが、「いくつかの興味深い結果をまとめたエレガントな研究」と評価する。

 デロシェール氏によると、海氷がない場所で氷河からの氷がホッキョクグマの集団を支えている例は、ノルウェーのスバールバル諸島でも以前から記録されているという。

 気候変動によって北極圏が大きく変化するなか、フィヨルドの氷河は海氷よりも長く残ると予測されている。そうであれば、この氷河が、氷に頼って狩りをするホッキョクグマに一時的な待避所を提供してくれるかもしれない。

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