6月14日、米国のイエローストーン国立公園の各所で鉄砲水が起こり、1万人以上の観光客に退避指示が出された。道路や橋が押し流され、下水管が破壊され、公園出入り口付近のコミュニティーは道路から切り離された。公園は閉鎖が続いていたが、22日以降、部分的に入場が許される予定。ただし、北の出入り口は今シーズン中の再開は難しいと見られている。
科学者や土地管理者は、過去100年で前例のない今回の洪水の規模に驚いているものの、データからは同様の事象が起こることは予想されたと語る。「科学者として言うなら、これは完全に予想し得たことです」と、古気候学者で「イエローストーン圏気候評価書」の主執筆者であるキャシー・ウィットロック氏は話す。この評価書は生態系に関する同様の報告書の先駆けとなったものだ。「ですが、一人の人間としてはショックを受けています」
今回の極端な洪水が気候変動の影響によるものなのかを確認するにはさらなる調査が必要だが、「2021年イエローストーン圏気候評価書」では降水の時期やタイプが大幅に変化することを予想していた。
同評価書によると、1950年以来、この地域の春の降水量は4月で17%、5月で23%増加した。一方で、年間降水量が増えているにもかかわらず、降雪量は減少している。これはすなわち、イエローストーンでは雪解け水が夏の間にゆっくりと谷間に放出されるのではなく、大雨と雪解け水が合わさって、今回の洪水のように危険な状況を引き起こしやすくなっていることを意味する。(参考記事:「写真で振り返るイエローストーン、世界初の国立公園誕生から150年 写真25点」)
気候変動によって形作られた地形
はるか昔から、イエローストーン周辺の地形は気候変動と大洪水によって形作られてきた。現在でも、米国西部では自然事象の変化は珍しいことではない。たとえば昨年、イエローストーン国立公園では6月の降水量が過去最低を記録した。
イエローストーン国立公園の地理情報システム管理者で、気候変動への適応計画に取り組むアン・ロッドマン氏は、今年の夏も同様に乾燥するだろうと考えていた。ほんの2カ月前に行った計算では、洪水が起こる確率は5%だった。
ところが6月中旬、ジェット気流が運んできた非常に湿った空気が、いつになく雪の多かった山々に雨を降らせ、高い気温とあいまって雪を解かした。今後気温が上昇するに連れて、北米西部の高地ではこのように雪の上に雨が降る事象の頻度が増すと予想される。一方で、低地では積雪の減少により同様の事象は起こりづらくなると考えられる。
おすすめ関連書籍
豪雨、豪雪、暴風、干ばつ、極寒、稲妻など、世界各地で見られる天変地異。迫力のある写真と、それぞれの状況を伝えるわかりやすいキャプションで、読む人に畏怖の念を抱かせる1冊。
定価:2,970円(税込)