「英国の歴史変えた」340年前の沈没船を発見、未来の国王が乗船

パーティを繰り広げ針路を決めたヨーク公、沈没が汚点に、H.M.S.グロスター号

2022.06.17
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 2003年、海辺の町ヤーマスに暮らすダイビング愛好家のリンカーン・バーンウェル、ジュリアン・バーンウェル兄弟が沈没船の捜索を開始した。趣味で始めたことだったが、すぐに費用を投じてのめり込んだ。2人はローンを組んで全長約12メートルの船を購入し、短い夏のダイビングシーズン、すべての空き時間を沈没船探しに費やした。

「9000キロ以上を航行して捜索しましたが、見えるのは砂ばかりでした」とリンカーンさんは振り返る。「ところがある日、潜ってみると、海底に大砲が散乱していたのです。忘れられない光景です」

 だが、バーンウェル兄弟はすぐに、沈没船を発見することとその名前を特定することは別物であると学んだ。グロスター号のような歴史的に重要な沈没船の場合、証拠が必要だ。2012年に船の鐘が回収され、グロスター号である証拠となったが、まだ豊富な遺物が残されている可能性が高く、保護の計画が必要だった。そのため、今まで秘密にされていたのだ。

ひげを生やした顔が描かれたバートマン・ジャグと呼ばれる容器。沈没船から回収された17世紀の遺物の一つだ。(PHOTOGRAPH COURTESY NORFOLK HISTORIC SHIPWRECKS)
ひげを生やした顔が描かれたバートマン・ジャグと呼ばれる容器。沈没船から回収された17世紀の遺物の一つだ。(PHOTOGRAPH COURTESY NORFOLK HISTORIC SHIPWRECKS)

 船の沈没については、何がどのように起きたのか、誰の責任かを巡り、すぐに激しい議論が何年も続いた。ヨーク公は全責任を否定し、グロスター号の水先人を絞首刑にするよう要求した(結局、水先人は軍法会議にかけられ、「終身」刑を言い渡されたが、1年後、ひそかに釈放された)。

 しかし、ヨーク公は敵が多く、多くの船員が溺れるなか、自身の飼い犬の救助を命じた無慈悲な人間と中傷された。水先人に罪を負わせたことで、生涯にわたって海軍から憎まれ、味方さえも失望させた。ヨーク公の評判は傷つき、犠牲者の遺族に補償金を支払ってイメージ回復を図っても、汚点が消えることはなかった。

ジョージ・ワシントンの祖先であるレッグ家の紋章が描かれた未開封のワインボトル。(PHOTOGRAPH COURTESY NORFOLK HISTORIC SHIPWRECKS)
ジョージ・ワシントンの祖先であるレッグ家の紋章が描かれた未開封のワインボトル。(PHOTOGRAPH COURTESY NORFOLK HISTORIC SHIPWRECKS)

 結局、ジェームズ2世として国王になったものの、その治世は4年足らずと短かった。1688年の「名誉革命」で王位を追放されたのは主に宗教問題、政治、横暴さのせいだが、グロスター号の惨事は悪臭のように付きまとっていた。「忘れ去られるはずがありません」とジョウィット氏は断言する。

 それは、これからも忘れ去られることはないだろう。この沈没船は歴史上の本当にあった瞬間とそれを生きた人々への扉を開いてくれる。すでに興味深い品々が見つかっている。17世紀のクラレット(赤ワイン)が入った未開封のボトルには、初代米大統領ジョージ・ワシントンの祖先であるレッグ家の星とストライプの紋章が描かれたものもある。

海底に露出したグロスター号の滑車装置。このほかにも多くの遺物が埋まっている可能性がある。(PHOTOGRAPH BY NORFOLK HISTORIC SHIPWRECKS)
海底に露出したグロスター号の滑車装置。このほかにも多くの遺物が埋まっている可能性がある。(PHOTOGRAPH BY NORFOLK HISTORIC SHIPWRECKS)

「これまでに発見されたものは糸口にすぎません」とキングスレー氏は話す。「状態のよい素晴らしい品々に、大きな期待が寄せられています。王家の荷物は言うまでもありません」(参考記事:「沈没船から17世紀の王家のドレス見つかる、きわめて重要な発見」

 グロスター号は「スチュアート朝イングランドの宮殿や上流社会という特権的な世界をのぞき見るドラマティックな舷窓です。バッキンガム宮殿と『ダウントン・アビー』が海底で出会ったようなものです」

ギャラリー:南極に沈んだ探検船エンデュアランス号、ついに発見 画像12点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:南極に沈んだ探検船エンデュアランス号、ついに発見 画像12点(写真クリックでギャラリーページへ)
アイルランドの探検家アーネスト・ヘンリー・シャクルトンの全長44mの船「エンデュアランス号」は、南極沖のウェッデル海で氷に破壊されて沈没し、1世紀以上にわたり行方不明になっていた。2022年、この船は水深3000mの海底で、驚くほど良好な状態で発見された。(THE FALKLANDS MARITIME HERITAGE TRUST, NATIONAL GEOGRAPHIC)

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文=ROFF SMITH/訳=米井香織

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