発信器を首に付けたコヨーテが鉄道橋を歩く。ここシカゴには約4000頭のコヨーテが生息する。都市の野生動物は、自然の中で生きる動物より困難を巧みに切り抜けることが多いとわかってきた。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)
発信器を首に付けたコヨーテが鉄道橋を歩く。ここシカゴには約4000頭のコヨーテが生息する。都市の野生動物は、自然の中で生きる動物より困難を巧みに切り抜けることが多いとわかってきた。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年7月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

クマ、コヨーテ、アライグマなど、生息域が縮小するなか都会にうまく適応する生き物もいる。

 郵便配達員が車から降り、手紙の束を持って通りを渡る。これだけなら米国のどの町でも見かけるありふれた光景だ。しかし、そこからほんの数メートル離れたところには大きなアメリカクロクマが座り込んでいる。だが配達員は一向に気にする様子もない。

 左手に延びる金網のフェンスの向こうは州間高速道路240号線だが、クマは車の騒音もどこ吹く風で、やがて歩道を大股で走って姿を消した。ノースカロライナ州アッシュビルの中心部から1キロも離れていない場所での出来事だ。

 ノースカロライナ都市・郊外クマ生態調査プロジェクトでは、100頭を超えるクマに発信器を付けて追跡している。そのうちの1頭である雌の「N209」は、高速道路のすぐ脇でウラジロサトウカエデの木の深いうろに籠もって冬眠していたことが判明した。数メートル先で車が激しく行き交う場所だ。

 プロジェクトは8年目だが、「いまだに驚きの連続です」と話すのは、アメリカクロクマと毛皮動物を専門とする生物学者コリーン・オーフェンビュートルだ。彼女の同僚が木に登って「N209」の巣穴の大きさを測定する。アメリカクロクマの研究を始めて23年になるオーフェンビュートルにとっても、木にできた巣穴としてはこれまで見たなかで最大だ。「クマは私たちが思っているよりずっと適応力があります」

 アメリカクロクマがアッシュビルの暮らしにこれほどなじんでいるとは驚きだ。ブルーリッジ山脈の麓にある人口約9万5000人の都市で、クマが白昼堂々と住宅街を歩き回り、家々のテラスによじ登っている。彼らを歓迎する住民もいるし、住民と話すと、ほとんどの人がスマホにクマと遭遇した動画を保存しているという。

アッシュビルに住むカーター夫妻宅の裏庭で、タイヤのブランコで遊ぶ子グマたち。「ここはクマに寛大な街ですが、行き過ぎにならないかと心配です」と、生物学者のコリーン・オーフェンビュートルは話す。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)
アッシュビルに住むカーター夫妻宅の裏庭で、タイヤのブランコで遊ぶ子グマたち。「ここはクマに寛大な街ですが、行き過ぎにならないかと心配です」と、生物学者のコリーン・オーフェンビュートルは話す。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

 アッシュビルなどの都市でクマの姿が見られるようになった背景には、土地利用の変化や、人間の近くで生活すると豊富な食べ物にありつけることなど、複数の要因がある。その結果、北米のアメリカクロクマの個体数は80万頭近くに増えた。都市や郊外が拡大し続けてクマの生息域をのみ込んでいる以上、人間のそばで生きる以外に選択肢がないのが実情だ。

 こうした現象は全米や世界中の都市部で確認されていて、アメリカクロクマだけではなく、さまざまな動物に当てはまる。雑食性の哺乳動物の多くが都会に入り込み、行動を変えて生きる知恵を身に付けているのだ。

 身近な生き物の研究が進むにつれて、多くの種がかつてない方法で都会の生活に適応している事実が明らかになってきた。たとえば、コヨーテは道を渡る前に左右を確認するし、アメリカクロクマは生ごみの収集日を知っている。そしてアライグマはごみ箱の蓋を固定しているゴムロープを引っ張って開けることができる。

生ごみをくわえてごみ収集箱から顔を出すアメリカクロクマ(サウス・レイクタホ)。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)
生ごみをくわえてごみ収集箱から顔を出すアメリカクロクマ(サウス・レイクタホ)。(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

次ページ:都市のクマと自然の中にすむクマの興味深い差異

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