発刊100年、ジョイス『ユリシーズ』の謎を解きにダブリンへ

6月16日はアイルランド「ブルームの日」

2022.06.16
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年に一度の「ブルームの日」、ジェイムズ・ジョイスの格好をして、ダブリンのグラスネビン墓地にあるジョイスの両親の墓を訪ねるジョン・シェブリン氏。ジョイスの『ユリシーズ』が出版されてから100年がたった今も、この小説が与えた衝撃はダブリンの人々や世界中の文学ファンの心を揺さぶり続けている。(PHOTOGRAPH BY BRIAN LAWLESS, PA IMAGES/GETTY IMAGES)
年に一度の「ブルームの日」、ジェイムズ・ジョイスの格好をして、ダブリンのグラスネビン墓地にあるジョイスの両親の墓を訪ねるジョン・シェブリン氏。ジョイスの『ユリシーズ』が出版されてから100年がたった今も、この小説が与えた衝撃はダブリンの人々や世界中の文学ファンの心を揺さぶり続けている。(PHOTOGRAPH BY BRIAN LAWLESS, PA IMAGES/GETTY IMAGES)

 アイルランド、ダブリン空港に着陸すると、小説『ユリシーズ』に関連するメールが携帯電話に次々に送られてくる。特に目を引くのは、アイルランド大統領からのものだ。

「『ユリシーズ』は勇敢なる新たな旅立ちでした。そしてその影響は、今も21世紀の偉大な作品の数々に見ることができます」。マイケル・D・ヒギンズ大統領のメールにはそうある。

 わたし(筆者のEdmund Vallance氏)がダブリンにやってきたのは、1922年2月2日に出版された『ユリシーズ』の100周年を取材するためだ。ウラジーミル・ナボコフはこの小説を「神のような芸術作品」と呼び、また現代でも、作家サルマン・ラシュディから歌手のケイト・ブッシュに至るまで、さまざまな人たちがこの作品を絶賛している。『ユリシーズ』の色褪せない魅力はどこにあるのだろうか。

『ユリシーズ』を読んだことのない人たち(あるいは読んだふりをしているだけの人たち)のために、その内容を簡単に説明しておくと、これはレオポルド・ブルームという人物と、彼がある1日(1904年6月16日)に、ダブリンの街で経験するさまざまな出来事についての物語だ。今年の「ブルームの日」(作品にちなんで毎年6月16日に祝われる)には、ブルームズデー映画祭をはじめ、数々の行事が予定されている。

ダブリンのジェイムズ・ジョイス・センターで『ユリシーズ』を読む女性。同館には、この小説の主人公である架空の人物レオポルド・ブルームとその妻モリーが暮らす家のドアが展示されている。ふたりが住んでいたとされるエクルズ通り七番地にあった家は1967年に取り壊されたが、そのドアだけは保管されていた。(PHOTOGRAPH BY IMAGE PROFESSIONALS GMBH, ALAMY STOCK PHOTO)
ダブリンのジェイムズ・ジョイス・センターで『ユリシーズ』を読む女性。同館には、この小説の主人公である架空の人物レオポルド・ブルームとその妻モリーが暮らす家のドアが展示されている。ふたりが住んでいたとされるエクルズ通り七番地にあった家は1967年に取り壊されたが、そのドアだけは保管されていた。(PHOTOGRAPH BY IMAGE PROFESSIONALS GMBH, ALAMY STOCK PHOTO)

 10代のころ、わたしはジョイスが書いたこの傑作を読もうとして挫折した。30代でなんとか全体を読み通したものの、40代半ばになった今でも、その解釈にはまるで自信がない。

 迷宮のように難解な『ユリシーズ』の謎を解き明かすために、わたしは3人の熱心なユリシーズ愛好家の協力を仰いだ。ひとり目は、長年政治家として活躍し、ダブリン大学トリニティカレッジで文学部教授も務めたデビッド・ノリス上院議員。ふたり目は、ブッカー賞を受賞した小説家で、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで文芸創作を教えるアン・エンライト氏。三人目は、アイルランド文学博物館(MoLi)の館長サイモン・オコナー氏だ。

酔っ払いのキュクロプス

 MoLi(この名称はブルームの妻モリーにちなんでいる)の近くまでやってくると、わたしはふいに「ジョイス恐怖症」に襲われた。わたしのような英国人ジャーナリストが、これほどまでにアイルランド的な小説の取材をしても大丈夫なのだろうか? しかし、にこやかにわたしを出迎え、テキパキと博物館を案内してくれたサイモン・オコナー氏のおかげでそんな不安はいつの間にか消えてしまった。この博物館のいちばんの見どころは、『ユリシーズ』の初版本だ。

「『ユリシーズ』の評判は、おのずと高まっていくのです」とオコナー氏が言う。初版本がガラスの下で貴重な遺物のように輝いている。「一生に一度は読むべき極めて難解な小説として知られている限り、人々は常に興味をそそられます。一度も読んだことがなくてすみませんと、わたしに謝る人も少なくありません。100年にわたって罪悪感を引き起こし続ける本とは、実にたいしたものです」

次ページ:難解だけど、とにかく読んで楽しんでほしい

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